第47話同レベル



 今現在わたくしは食堂で昼食を取っていた。


 昼食と言っても日本でよく見る学食のようなものではなく、三ツ星レストランもかくやというレベルの料理がテラス席、わたくしたちが座っている席に運ばれて来る。


 それにしても、カイザル殿下がバカであってホントに助かったと心底思う。


 少し煽っただけで簡単に釣れたのだが、これで周囲のわたくしに対する評価を『我儘であるがゆえに婚約破棄されたバカな令嬢』から『頭が弱すぎる上に女関係も最悪な婚約者から一方的に婚約破棄をされた我儘な令嬢』へと変わってくれたら、少しだけ学園で過ごしやすくなるのにな、と思う。


 しかしながらわたくしの斜め後ろに護衛のように立っているウィリアムが、わたくしに向ける視線が今以上に熱い視線へと変わったと思うのは気のせいであろうか?


 そもそもほんの数日前あんなに毛嫌いしていたわたくしの騎士になりたいなどと言われた時は何か裏があるのでは?と思っていたのだが、今なお熱い視線を送って来るウィリアムを見るに、単なる他人に影響されやすいバカなのでは?と思えて仕方がない。


 なんか警戒心が強い野良犬に一度餌を与えたらめちゃくちゃ懐かれてしまったような、そんな感じに近い。


「まったくいつまで後ろに立っているのですか」

「いや、俺はマリーの護衛だからな」


 まったく、これではまるで騎士にあこがれてマネをする男児ではないか。


 世話の焼ける奴だと思わずため息が出てしまうが、仕方のない事だとわたくしは思う。


「いいから座りなさい。 そして昼食を取りなさい」

「俺は遠征用の保存食があるから大丈夫──」

「──主の言う事が聞けないというのであれば新たに聞き分けの言い騎士を契約してきてお役御免にするしかないのかしら……」


 そう言った瞬間ウィリアムは素早く、しかしながら腐っても貴族だと思わされる洗練された綺麗な動作で席に座る。


「何をボケっとしている。 早く食べないとせっかくの料理が冷めてしまうぞ」

「え、ええ。そうね、食べましょうか」


 誰のせいでっ、と思うもののここで感情任せに切れたらウィリアムと同レベルだと自分に言い聞かせて何とか抑える。


「ん、美味しい……」

「そんな、今さら驚くような事でも無いだろう? 今までだって良く食べていただろうに」

「今までは一人でしたので常に好奇な視線を感じ、耳障りな囁き声を聞きながら食べていましたし、カイザル殿下は常にスフィア様と食べておりましたもの。 食事を楽しむ精神的な余裕などございませんでしたわ。 それに今はカイザル殿下の問題は解消致しましたし、一人ではなく二人で食べておりますもの。 いつもより美味しいと感じてしまうのは道理ではなくて?」

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