第45話何を学んだのですか?

「おやめなさい」


 その時、威厳と高貴さを兼ね揃えた美しい声が聞こえて来ると共に、辺りは水を打ったように鎮まる。


 その声の主は俺のご主人様であるマリーであり、その美しさに思わず見とれてしまうのも致し方ないだろう。


「……出過ぎた真似を、申し訳ございません」

「わたくしの事を守ろうとした行為については謝罪する必要はございませんわ。それよりもわたくしの剣がこんな奴らで汚れてしまうのが嫌だっただけですもの。 ただのわたくしの我儘で止めてしまって、むしろわたくしが謝るほうですわ」


 そして俺はご主人様の意向を無視し、自分の感情によって突っ走ってしまっていた事に気付いたため即座に膝をつき頭を下げ謝罪をするのだが、マリーはむしろ自分の方が悪いのだというではないか。


 その寛大な心に俺はより一層マリーの剣となった事判断は正しかったのだと強く思う。


「き、貴様っ!! 何故そんな偉そうな態度でいるんだっ!? まずは皇位継承権第一位である俺に挨拶、そしてこのバカへ罰を与え、俺への無礼な行為の数々を謝罪するのが礼儀であろうっ!!」


 後ろで何か喚いている奴とは雲泥の差である。


 もし、あの婚約破棄が無ければ俺はあのまま、自分を見つめ返す事もせず、そして何も疑う事もせず、コイツの剣となっていただろうと思うとゾッとする。


「何を言っているのですか? あなたは既に皇位継承権は皇帝陛下によって剥奪されているはずです。皇位継承権を剥奪された理由も理由ですので皇族ではあるものの政事などに参加もできず、当然その立場はわたくしゴールド家である公爵家よりも低いと思うのですが?」

「それも一時的な話であり、お前との婚約をし直せば問題なかろうっ!? しかも皇位継承権第一位であるこの俺がわざわざ婚約破棄を無かった事にしてやるというのに何だ?その態度はっ!?」

「今皇位継承権第一位であるお方はカイザル殿下の弟であるクリストフェル殿下様です。決してカイザル殿下、あなたではございませんわ。 継承権第は剥奪されているにも関わらず皇位継承権第一位などと嘯く事こそ首を跳ねられてもおかしくない程の不敬罪だとわたくしは思うのですけれども?」

「だから貴様と婚約し直せば問題ないと言っているのが何故分からん」

「たとえ立場が元に戻ったとしても、今は違いますわ。 そもそも、家と家との関係である話を相手の予定など考えもせず乗り込み、婚約破棄の時と同様に口頭で告げるなど言語道断。 貴方はあの一件で何を学んだのですか?」

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