第37話お前でしょうが


「ああ、確かにそんな約束はしていないし言った覚えもないな」

「でしたら──」

「──だが、お前の身体の事を知ってしまった。 そして俺はお前に謝罪してもしきれない事をしてしまった。 ならば俺は、せめて学園内だけでもお前に降りかかる火の粉を振り払い、また倒れても良いようにできるだけ側で見守ると、俺自身に誓った」


 そう真剣な表情で言うウィリアムはまるで一枚の絵画の如く美しく、並の令嬢であれば一発でいちころだったであろう。


 しかしながらそれは、わたくし以外であればの話である。


 わたくしへ媚びを売って何をしたいのか、きっとウィリアムの父上に婚約破棄の時の失態をかなり叱られた為、ポイントを稼ぎ何とか父上に反省している姿を見せて弟に奪われそうな家督を継げるようにゴマを擦ろうとでも思っているのだろう。


 これ程までに見え透いた行動だといくらキザなセリフを吐きカッコつけようと、そうすればする程わたくしのウィリアムの評価は下がる一方だと分からないのだろうか?


 むしろわたくしがどう思うか関係なく、父上に良いようにアピールできればそれで良いとでも思っているのかもしれない。


 いや、きっとそうだ。そうに違いない。


 そもそもの話──


「今現在わたくしに降り注がれる好奇な視線と陰口という火の粉はカイザル殿下との婚約破棄よりもウィリアムがわたくしお姫様抱っこで学園内を練り歩きまくった件が大半なのですけれども?」


──今このような状況になった最大の原因はウィリアム、お前でしょうが。


「そ、それはその……わ、悪かった。 だが、俺は周囲の視線や陰口よりもお前の身体の事が心配なんだ。 たとえお前に今以上嫌われたとしても、今この場所で倒れたのならばまた同じように担つがせて保健室なり帰路の馬車なり運ばせてもらう」


 そういうウィリアムの目はわたくしの目をしっかりと見つめていた。


 わたくしはこの目を知っている。


 何を言っても、何を言われても、何をされても貫き通す目だ。


 嫌いな目だ。


「全く、つい最近までわたくしに対して嫌悪感を隠しもしない程嫌っていたのに何でこうなったのか……は? 何をしてますのっ!?」


 そう誰に聞かせるわけでもなく頭の中の愚痴をこぼしただけだったのだが、ウィリアムの耳にばっちり届いていたみたいである。


 わたくしの愚痴を聞いたウィリアムは膝をつき、頭を垂れるではないか。


 そして更にウィリアムは自身が常に帯剣を抜刀すると、柄をわたくしに向けて渡そうとしてくるではないか。

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