第34話前世の私だってする
「俺は普段から鍛えているから大丈夫だ。 むしろマリーの貴重な休憩時間を奪ってしまったという方が深刻だろう」
「わたくしでしたら十二分に休憩できたので体力面では問題ないですわ」
いつまでもウィリアムの膝を枕代わりにする訳もいかずわたくしはおずおずと寝心地のよい枕から、後ろ髪を引かれつつも離れ、着崩れした身なりを軽く整えながらウィリアムへ問題ないと告げる。
「そうか。 なら教室まで運んでやる」
「なっ!? ちょっとっ!! やめなさいっ!!」
そしてウィリアムはそういうとわたくしをここへ運んできた時と同様にお姫様抱っこをして抱えるではないか。
「いや、やめないね。 立っているだけどころか座っているだけでも辛そうな奴が歩いて平気な訳が無いだろう? これではせっかく回復したのに意味がないではないか?」
『頭悪いなお前。 そんな単純な事も分からないのか』というような表情でウィリアムからそんな事を言われるものの、言っている事はあながち間違っておらず反論できないのが尚の事腹が立つ。
「し、しかしだからと言ってこの方法はどうかと思いましてよっ!! 他にいい方法があるでしょうっ!!」
「他にいい方法? 例えばどんな方法だ。 ここには俺とお前しかいない。 そして俺は日々鍛錬しておりマリーくらい華奢な女性であればいくらでも運んでやれる。 なら答えは自然と俺がマリーを運ぶという答えが導き出るのは至極当然の流れではないのか?」
脳筋のくせにっ!!
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬっ!」
しかし、いくら悔しかろうがウィリアムが提示した方法を超えるいい案が思いつかないのもまた事実である為わたくしは悔しさを前面に出して歯噛みする。
「そ、それにしたって周囲の目というものがございますわっ!!」
「今の俺とお前にか? もう周囲の目を気にする必要が無いほど評価は地に落ちていると思うが?」
「は、恥かしいと言っているのですっ!!」
「それこそ今更だろう。 もうすでに噂が学園中に広がっている頃だろうぜ。ったく、つべこべ文句言ってないで黙って運ばれてろ」
それでもなおも文句を言いながら下せと暴れるわたくしの抗議などウィリアムには全く効いていないようでその太い腕で力強くガッシリと抱えられては、わたくしの力ではどうする事もできないと悟り、無駄な抵抗を諦めるのであった。
◆
教室に戻ってからはわたくしの周囲には黄色い声で絶えずひそひそ話が聞こえていた。
当たり前だ。
普段孤立しているクラスメイトがイケメンにお姫様抱っこされて教室へ入って来たら誰だって黄色い声でひそひそ話をする。
今と違って友達がいた前世の私だってする。
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