第23話気持ち悪いくらい穏やかな日々
俺は今までなんの為に、父親と同じように近衛兵になろうと夢見たのか。
大切な人を守るため。
それももちろんある。
しかし、一番最初に思った事は弱きものを守るためではなかったのか。
もし、マリーの言う事が本当であれば、スフィアの言っていた、マリーにされたという数々の嫌がらせ、その殆どが嘘という事になってしまう。
確かに、マリーがスフィアへ小言レベルの嫌味をネチネチと言っていたのは覚えているのだが、その印象が強すぎてスフィアの証言を信じ切り、碌に調べもせず、弱者はスフィアであると決めつけてマリーを傷つけてしまった。
とんだ糞野郎ではないか。
婚約破棄を宣言したのはカイザル殿下ではあるが、それを止めるどころかそうあるべきと進言したのであれば、それは最早同罪である。
それに、今思い返してみればマリーの小言の数々はスフィアの貴族としてあるまじき態度に対してのみ言っていた。
人間という生き物は間違った行為を正論で返されると激しい怒りにより我を忘れやすい生き物だから注意しろ、と良く父親に口酸っぱく言われていたのだが、これでは父親に見せる顔もないではないか。
バカは俺で、最低な奴は俺で、裁かれるべきはマリーではなく俺であった。
そして俺は行動に移す。
俺が行った事は決して許されない事であったが、だからといってこのまま何もしないというのは何よりも俺自身が許さないからである。
先ず初めに父親に頭を下げ、殴られるのだが、どうやら俺がしでかした事の事の重大さに気付いていたのだが叱ることをぐっと堪え、親が頭ごなしで叱っても意味がないと自らその過ちに気付く事を待っていたようである。
今回の事件により父上は皇帝陛下に、俺の罰を取り下げる代わりに家督を継ぐ者を弟へと変更させ、騎士団からの除外という事で話を付けて頂いたみたいで、そこで自分のしでかした事の重大さに気付けたのならば良し、気付けないのであれば縁切りも考えていたようだ。
因みにこの事をマリーに告げれば『子供の罪を無かった事にさせる等甘すぎますわね。 まさに、この親にしてバカ息子ありという事ですわ』という厳しい言葉を頂いたのだがまさにその通りであると今ならば分かる。
そして、この家は俺のしでかした愚行のせいでこれからが大変だろう。
そんな俺の様な奴にチャンスをくれた事に、今一度深く頭を下げる。
そして俺は決意も新たにし、マリーが行ったとされる悪行の数々について調べ始めるのであった。
◆
登校を再開した初日こそウィリアムのせいで大変な思いをしたが、その日以降は気持ち悪いくらい穏やかな日々を過ごせていた。
そして、何だかんだで初日同様に『悪を見張るのは当然だ』とか言ってあの正義バカの脳みそ筋肉、猪突猛進ブレーキの無い列車野郎であるウィリアムがわたくしへちょっかいをかけて来ると思っていたのに、ちょっかいをかけてくるどころか一向に現れない事が、あまりにも不自然すぎて余計に穏やかな日々が気持ち悪いと感じてしまう。
あるとすれば、耳をすませば聞こえて来る貴族令嬢達からの嫌味や嘲笑くらいであろうか。
その程度であればなんてことはない、可愛らしいものである。
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