第22話後悔として湧き上がってくる
「けほっ。す、すみません。話を遮ってしまいました。わたくしの事などどうぞお構いなく、続けてください」
どうせ聞いてないのでという言葉は口にせず、咳き込んでしまった事を詫びて、長引きそうなウィリアムの話を続けるように促す。
「お構いなくって、お前……血を吐いている令嬢を前にしてそんな事できるかよ」
血を吐くほど体調が悪くなったのはお前のせいだっ!と叫べればどれだけ気持ちよかった事か。
しかし、そんな事をしては今以上に面倒くさそうな事になる事は火を見るより明らかである為ぐっと堪える。
「いつもの事でございますので大丈夫でございます」
「いつもの事って、そんな話は聞いたことが無いのだが、嘘ついてんじゃないだろうな?」
「嘘などではございません。それにわたくしは昔から身体が病弱であると言っておりましたわ。それに『本日はあまり体調が良くないので』と言って席を外れる事は多々あったはずでございます」
◆
「……………………あ」
そこで俺は、確かに目の前のマリーは昔から身体が弱いと口癖のように言っていた事を思い出す。
確かに、このマリーというカイザル殿下の元婚約者であった令嬢は何かに付けて体調が悪いと言ってはカイザル殿下を困らせていた事を思い出す。
「しかし、それはカイザル殿下の気を引くための仮病じゃ──」
「婚約者である者がいる場で体調がすぐれないから退室するなど、相手に悪い印象しか与えないような行為を誰が好き好んでやるというのですか?もう大丈夫ですので、出て行って下さいませ」
「いやしかしだな……」
しかし、体調が悪いと言ってはカイザル殿下を困らせていたのはいつもの事であり最早マリーが体調を崩すと言い始めることが当たり前であると思える程には日常化していた為誰も、気にも留めていなかった。
むしろ、あまりにも多いため俺はマリーが仮病を使ってカイザル殿下の気を引こうとしている姑息な手段だと決めつけていた。
しかし、もし本当に仮病であったのならばわざわカイザル殿下がいない場所で倒れるような無駄でしかない行為はするはずがない。
それに、血を吐く姿まで見てしまっては、マリーの言葉を信じるしかないではないか。
「出て行って下さいまし」
「……分かった」
二度、この俺に向かって出ていけというマリーの目は力強く、頷くしかなかった俺は保健室を後にする。
俺は、あのパーティーの日、マリーに対して行った行為を思い出す。
知らなかったでは済まされない。
いくらマリーの性格が悪いとはいえ、女性に対してあのような振舞、今思い返せばそれがどういう事であるか今さらながらに後悔として湧き上がってくる。
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