第18話それはそれで歯がゆくも思う





 わたくしが城に滞在していたその時、お父様は皇帝陛下と、また公爵家の面々とこれからの立ち回りや今回の件の対応に走り回っていたそうで、特に我儘で有名であったわたくしが数日間も大人しく過ごしたという事実が『それほどまでに心と身体に負った傷は大きい』という解釈となり、大きな武器として使えた為、その武器を振り回して終始有利に事を進める事ができたらしい。


 その事がお父様の『一時はどうなるかと思ったのだが終わりよければ全てよし』というような表情から、如何にお父様の独壇場であったのかが見て取れる。


 そしてここ数日のお父様の口癖はというと「俺だけの可愛い娘をよその家に嫁がせる事を阻止する事ができた」であり、それを聞くもの全員(使用人も含めた)が、そこから派生する娘可愛さによる長話込みで可哀想な人を見る目をしてお父様を眺めているのだが、当の本人はそんな事よりもわたくしの名誉を傷を付けずに綺麗に婚約破棄できた事の喜びで周りが見えていないのか、可哀そうな目線などなんのそのと目につく人を捕まえては語りだす始末である。


 初めは周りも『面倒くさいけれど一応相手をしてやるか』といった感じでお父様の相手をしていたのだが、今では露骨に避けはじめられている。


 父親が周囲に避けられている光景をみる思春期ど真ん中の娘の気持ちも少しは考えて欲しいものである。


 しかしながら、これでようやっと妃候補という重圧と、それによる数多のレッスンから解放されるのだと思うと、お父様を怒るに怒れないのだから、それはそれで歯がゆくも思う。


 しかしながら、いくらお父様が綺麗に婚約破棄の手続きをしてくれたとはいえ、わたくしに対する周囲、特に他貴族からの『我儘に育った娘』という評価が変わることはなく、むしろ『メシウマ』と思われている事を実感する。


 というのも今現在医者から問題なしと太鼓判を頂いたため学園へと久しぶりに登校しているからである。


 皆一応わたくしに聞こえないように話している様なのだが、わざとやっているのかと言いたくなる程普通にそれら陰口が聞こえて来る。


 しかしながらこれに関してはわたくしの身から出た錆で御座いますので言い返してやりたい気持ちをぐっと堪える。


 そもそも言い返した所でわたくし今までの行いが無くなる訳もないですし、そもそもそんな事に割く体力が無い。


 そして、陰口から分かった事はカイザル殿下が一週間の謹慎により学園へと登校できないという状況であり、更に謹慎が明けても学園に通えるかどうかも分からないらしい。

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