第16話老婆心ながら
そうだ。
絶対に許してなるものか。
そう思い、俺は一週間過ごしたのちに牢屋の外へ出てるのだが、そこではじめの違和感を感じる。
迎えに来た使用人が、普段の側仕え達ではなく、初めて見る者へ変わっているのだ。
普通であれば主に黙って側仕えが変わるなど、ましてや皇族であり未来の皇帝でもある自分に対してそんな事あり得ない。
そう思うのだが実際に目の前にいる側仕えは見たこともない新顔である。
暗殺という言葉が一瞬頭に過るのだが、それにしては大胆過ぎる上に、あまりにも雑過ぎる。
証拠を隠そうともしてなければ、牢屋まで来れる立場にも関わらず寝込みを襲う訳でもなければ食事に毒を盛る訳でもなく、正面から顔を隠すことまなく俺の前に現れて手を差し伸べて来るではないか。
一瞬こいつを信用しても良いものかと迷いはしたものの、どのみちこいつが俺を殺すつもりであるのならば今殺されているが、俺は実際に殺されておらず生きている事こそが、こいつが俺を今はまだ殺すつもりはない何よりの証拠であろう。
そう結論付け、意を決して新顔の側仕えの手引きで牢屋の外へと出る事が出来た。
それから自分の部屋へと戻ると、執事の仕事を任せている見慣れた初老の男性、リカルドが出迎えてくれた事により俺は一気に緊張の糸が途切れ、ソファーへとダイブするように座り、脱力する。
「お帰りなさいませ、カイザル殿下」
「……ん? カイザル殿下?」
その姿を見てリカルドが声をかけてくれるのだが、違和感を感じて思わず首を傾げてしまう。
「ええ、カイザル殿下」
「……いつもの様に主呼びで構わないぞ」
そして、二回目だと流石にリカルドの、俺の呼び方がいつもと違う事に気付く。
「そういう訳にもいきません。 なぜならば、私はもうカイザル殿下の執事ではないからでございます。 おそらく今日をもって会うことも無いでしょう。 とりあえずは今までの仕えて来た相手でございますし、仕事は綺麗に終わらせたうえで持ち場を離れる事が私の考えでございますので」
「は? 何を言って──」
「老婆心ながら説明させて頂きましょう。 誰も沈む泥船には乗りたくないのでございます。 ましてや今回の様に、状況を把握できておらず頭の悪い行動を取り、陛下の与えてくださった最後のお情けにすら気づくことが出来なかった者ともなれば猶更でございます。 私を含めてカイザル殿下に仕えていた使用人たちは、全員貴族の出でございますれば、実家からもカイザル殿下から離れて担ぐ神輿を変えるようにというお声をかけられているのでしょう。 そして、男爵家次男である私にも本家より飛び火がくる前に離れる様に言われております」
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