第10話乱雑に突き出す、

 どうせ今日この日をもってカイザル殿下の皇位継承権は無くなった事に等しくなるのですけれども、と頭の中で思いつつわたくしはこの居心地の悪い場所から離れようとする。


「このまま逃がすと思うか?」


 しかしながらそんな簡単に離れさせてはくれないみたいである。


 なぜならばわたくしの行く先を阻むように佇みながら睨みつけてくる男性がいたからであり、その目はカイザル殿下と同様に怒りと蔑み、そしてこれから悪を成敗出来るのだという悦を孕んでいた。


 その男性は『永遠のラビリンス』の攻略キャラクターであり、カイザル殿下の護衛でもある側近の一人であり軍事を主に任されている伯爵家の長男、ウィリアム・ペイジがそこにいた。


「どきなさい。 今この時だけは公爵家に対しての無礼をなかった事にして差し上げますが、次はございませんわよ?」


 そんな彼にわたくしも負けじと睨み返す。


 そもそも下の貴族から声をかけるのはご法度であり、ましてやこのような失礼な態度どころか礼儀作法もできておらず挨拶もなしに行く手を阻むなど本来であれば、その家の名前に泥を塗りたくるレベルのあってはならぬ愚行なのだが、そろそろわたくしの貧弱な身体では体力も限界に近く、せめて壁にもたれないと冗談抜きで倒れかねない為、見逃してやるから失せろと命令する。


 まぁだからと言って他の貴族が大勢いる前で行った愚行が消える訳ではないのでどのみちウィリアムの評価は一気に下がる事まではさすがの私でも庇いきれないのだが、自業自得だろう。


 ウィリアムもウィリアムで優秀な弟が二人もいるにも拘らず、よくこんな態度をとれるなとむしろ逆に感心してしまう。


 しかしながら『きっとカイザル殿下もウィリアムも感情でしか物事を考える事ができないのだろう。 


 それは即ち行動に移せばどうなるのかまで考える事ができない人物』だと他貴族達に間違いなく思われている事に気づいていないのかウィリアムは一向に退く気配をみせないどころかわたくしの腕をつかみ力任せに引ずりながらわたくしを、カイザル殿下の後ろに隠れるようにいるスフィア・エドワーズの元へと、まるでゴミを放り投げるかのように乱雑に突き出す。


「きゃぁっ!?」


そして当然そんな事をされては、わたくしの身体が耐えられるはずも無く勢いそのままに床へ倒れ込んでしまう。


「ふん、貴族の権力に物を言わせようたってそうはいかない。 そしていつまで倒れているつもりだ? どうせ床に倒れ込んだ行為もか弱さをアピールする為の演技なのだろう?」

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