第9話一般的な知能

「はっ、まったく可愛げの無い女だなっ! 少しでも申し訳なさそうな態度ぐらいは見せられないのか?」

「わたくしは謝るような行為も、申し訳ないと思ってしまうような行為も決して行っていないと断言できますもの。 それなのに何故わたくしが悪いような態度を取らなければならないのですか?」


 恋は盲目とは言うものの、愛する異性の為に悪を成敗するというその勇ましさと行動力は大変よろしゅうございますが、それが次期皇帝候補となると話は別である。


 ましてや、一度吐いた唾は飲み込めないのだ。


 今この日の出来事はそっくりそのままお父様とお母さまのお耳に入る事であろう。


 わたくしの家は公爵家である。


 すなわちわたくしの家系は皇族の血が流れている事くらいその爵位からも簡単に想像できる上に、目の前のボンクラのお爺様である前皇帝陛下の父親の曾孫がわたくしなのである。


 知らなかった、分からなかったでは通用するはずがない、言い逃れなど出来ようはずもないし、とぼけて知らない振りをしようとしてもさせるつもり等毛頭ない。


 だからこその公爵家であり、だからこその権力をもっているのだ。


 故に我がゴールド家の後ろ盾は強力であるのだ。


 恐らく目の前のボンクラの思考回路は『皇族の言葉は絶対』とでも思っているのだろう。


 だからこそボンクラが出来上がったのだ。


 最早目の前のボンクラを想う気持ち等きれいさっぱり無くなりマイナスへと今なお振り切れ続けている。


 因みにわたくしが魔力欠乏症である事を知っているのは両親と家族、現皇帝陛下と妃のみであるのだが、公爵家から娘を嫁がせるにしても何故東西南北と振り分けられている四つの公爵家の内、ゴールド家であるわたくしが選ばれたのか、ボンクラの態度を見る限り少しも考えようとしていなかった事が伺える。


 他の公爵家が黙っているのを見るに四公爵家は魔力欠乏症ではないにしろ何かしらわたくしに、他の家の令嬢にはない物を持っている事に気づいているのが分かる。


 他に公爵家にも殿下と歳の近い娘は何人かいたにも関わらず、彼女らと見合いすらせずに、わたくしが生まれてすぐにカイザル殿下との婚約に至ったのだ。


 一般的な知能があればわたくしに何かがあると普通は思うであろう。


「そんなんだからお前は俺に捨てられたんだよっ! もう良い、この場から即刻出ていけっ!!」

「出て行けと言われましても現皇帝陛下にまだ顔見世もしていないにも関わらず、まだ皇帝ですらない継承権を持っているだけの人の指示に従い勝手に出ていける訳がないでしょう。 わたくしは壁の花にでもなって差し上げますので金輪際わたくしには関わらないでくださいまし」



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