第7話胸を張って言い切れる

「マリー・ゴールドっ!! よくこのパーティーへと参加できたなっ! 貴様の今まで行ったスフィアへの嫌がらせの数々、忘れたとは言わせないぞっ!」


 わたくしを睨みつけてそう叫ぶカイザル殿下は、今まさに自分が正義の鉄槌を悪へ下すという快感に酔っているのであろう。


 周りを見渡せばいきなり婚約破棄を公衆の面前で婚約者である女性へ、別の女性を庇いながら怒鳴り散らすその光景を見て、周囲が騒めき立っている事に気づけたであろうが、今のカイザル殿下の視野は狭くなっておりそれに気付く事が出来ないようである。


「いきなり何をおっしゃるのですか? わたくしは誓ってスフィア様へ、カイザル殿下が怒鳴るような嫌がらせをした覚えはございませんわ」

「言うに事欠いて覚えてないだとっ!? 貴様も地に落ちたもんだなっ。こんなお前でも俺の婚約者だから今まで我慢してきたのだが、お前がその態度ならばこちらにも考えがあるっ!」


 もし気付けたのであれば、この状況は余りにも不味いと判断し、場所を変えるなり、後日言いたい内容と対応を書いた書類を送る等の対応をしてこの場を即座に離れるのであろうが、正義という名の拳を振りかざす事に酔い始めているカイザル殿下は、そのまま更にわたくしへ怒鳴りつける。


 そもそも私がスフィアへとできる嫌がらせなど、体力面から見てもせいぜい皮肉たっぷりの小言を言うくらいしか出来ない上に、わたくしはスフィアが『貴族淑女としてマナー違反をした時にだけ』しか言っていない。


 というのも、そもそもわたくしの体力面から考えれば少しでも一撃が大きい方法をと考える訳で、となればぐうの音も出ない正論を振りかざす行為が一番有効であると考えたからである。


 スフィアが廊下を走った時、声を上げて笑った時、特に他人の婚約者である異性と二人でいる時などである。


 確かにわたくしはスフィアを目の敵にして意地悪な義理母のごとく目につく限りいびり倒したのだが、決して相手が悪い時だけ(言い返せず鬱憤が溜まる時だけ)しか言っていないと胸を張って言い切れる。


 なのでわたくしは自信を持って胸を張り、カイザル殿下を睨みつける。


 カイザル殿下の方こそ間違っているのだと。


「なら、スフィアの私物が度々無くなった事や、水をかけられた事、足を引っかけられて転んだりした事など全て記憶にないというのかっ!?」

「それらの、わたくしがやったという証拠はございますの?」

「証拠など無くともスフィアがそう言っているのだっ! それで充分であるっ!!」

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