第52話 防衛戦②
「はあ、はあ……」
どれほど魔術を放ったのか。
もうそんなことを考える余裕もない。
だらりと額から垂れる血が鬱陶しく。
血と汗で肌に張り付いた衣服は、戦場でなければ脱ぎ捨ててしまいそうだ。
「だいぶ、減りましたかね……」
既に日が暮れかけるほど全力で戦ったおかげか、モンスターたちの圧力は弱まったようである。
多少は休む余裕ができそうだった。
ただ、この防衛戦にそもそも終わりはない。
本丸をどうにかしなければ、いくら戦っても戦ってもきりがない。
最悪なことに腐肉を喰らって無駄に増え続けているミガモスカだけが、また数を増して空を覆っている。
「この調子なら1度、戻っても大丈夫でしょう」
流石に夜も連続で戦うのは無理。
お腹空いた。
頭痛い。
喉がガラガラ。
汗がヤバイ。
服ぐちょぐちょ。
体中痛い。
寒い。
ちょっと全力を出せて、気持ちよかったが、このまま戦い続けると死ぬ。
そう判断した俺は即座にキナアマスカの防壁の内側にある拠点へと戻る。
「聖女様、食事とお湯の用意がございます。どうぞ、おやすみください」
「ああ、ありがとうございます」
兵士さんが用意してくれた場所へ行くと、ルーナががつがつ食事にありついているところであった。
「お、戻ったか。ボロボロだな!」
「それはあなたもでしょう。大丈夫ですか?」
「大丈夫だぞ! オマエは?」
「流石に魔術を撃ちすぎて頭がくらくらします。少し寝ようかと」
「すごかったよな、ずどーんって! 負けてられねえな! オレは飯食ったらすぐに出るぞ! こんな楽しい機会逃してたまるかってんだ」
「本当、すごいですよね、その考え」
「ふふ。ふふふ。何も考えてないの間違いと思います」
「ああ、アロナも休憩ですか?」
「ええ。ええ、そうです」
奇蹟を使い、主に回復などを担当しつつ、防壁に近づいてきてきたモンスターの牽制をやっていたアロナも休憩所にやってきていた。
「どうおもいます?」
「もたねえな、このままだと」
俺の主語を省いた問いに、ルーナは察して答えてくれた。
こういう戦闘系だと鋭いんだよな、ルーナは。
それ以外だと全然だけど。
「聖女がいくらいたって防壁がなくなったら終わりだろ? いつまでも持たねえだろこんなん」
「そこかしこ敵ばかりですからね」
「これどうにかするならもっと戦力がいるぞ」
ガリオンとの戦いでも、ここまでの大事ではなかった。
砂漠中のモンスターが砂漠に追われて暴走しているのだから、比べるのもおこがましいか。
ルーナの言う通りもっと戦力があれば……。
「…………戦力、ありますね……。ちょっと行ってきます」
「あん? どこに?」
「ちょっと戦力とってきます」
俺は絵画を起動。
あらかじめ設定してあるマーカーに向けて転移する。
「あ、おかーさん」
もちろんそこは俺の部屋だ。
「イコナ。とりあえず急いでいるので、また後で」
「わかった」
部屋を出て中庭へと向かう。
「おう、聖女様。帰ったんならちとヤバイことになっててな。クローネの嬢ちゃんが」
「今は、それどころではありません。帰ったら!」
ディランが何か言ってきていたが、今はあちらの戦域の方が大事だ。
俺は風の魔術で飛びあがると沈黙平原へと向かう。
沈黙平原に降り立った瞬間、俺はガリオンに囲まれる。
だが、襲われることはない。
俺は彼らに盟友として迎え入れられている。
「長へ話があってきました」
すぐに1匹のガリオンがどこかへ行くと、長が現れる。
「メイユウヨ、ヒサシイナ」
「お久しぶりです。随分と大きくなりましたね……?」
久方ぶりに見た長はかつて俺が殺した長以上の大きさと強靭さを持っているようであった。
長はすんすんと鼻を鳴らしてにやりと笑う。
「チトアセ。センジョウノニオイダ。ワレラガチカラヲカリニキタカメイユウヨ」
「ええ、異国の地で戦っています。力を貸していただけますか?」
「ワレラガメイヤクト、ワレラガイダイナルナニオイテ、チカラヲカス」
「ありがとうございます」
「ダガ、ジョウケンガ、アル」
「条件ですか、どのような?」
「フクヲヌゲ」
「え?」
え?
「フクヲヌゲ」
「え、えっと、なにをするのか聞いても?」
「ナメル」
「な、なめる?」
舐める?
舐めるとはどういうことですか?
舐めるということです。
なにを?
服を脱げということだから、俺を?
ええええええええ!?
嫌です!?
犬に舐められるのとはわけが違うんだぞ!?
「ワレラガメイユウヨ、アンシンスルガヨイ。タダワレラハシリタイダケダ」
「知る……?」
「メイユウガウケタイタミ、クルシミ。ソレラヲモッテ、ワレラハセンジョウニオモムク。カナラズヤナンジノキュウチヲスクッテミセヨウ」
かっこいい……。
いや、かっこいいけれども!
お風呂入ってないし、汗めちゃくちゃかいたしで、ヤバイし。
それを舐められるっていう状況があの、ヤバ、ヤバイよ!?
「サア、ジカンガナイノダロウ、メイユウヨ」
「う、うぅうう! わ、わかりました!」
だが、やるしかねえなら、やる。
勝つためならなんだってやってやるとも!
でも、恥ずかしいので思わず恥じらいながら脱いでしまった。
羞恥で死にそうだ。
ここにクローネとかいなかったことを本当に良かったと思うしかない。
「デハ」
長が俺の方に近づいて来る。
大きな口が開き、獣臭い吐息が身体にかかるむずがゆさに思わず身をよじる。
目を閉じて俺は終わるのを待つ。
口内から大きな舌が俺の身体を這う。
ねっとりとした生温かなさと共に、ねちゃりと唾液が腹に絡みついて、そこから舌の動きに合わせて塗りこまれて行くかのようであった。
そんな感じに全身をくまなく、舐め尽くされて、俺はもうぐったりである。
ただこちらを労わる気があったようで、傷をつけないような舌遣いそういう怪しいエロゲーを思い出させてくれやがったので、何とも言えなくなった。
いつか夢に見そうである。
…………1回だけならウェルカムで……。
「アア、イイ、ジツニサイコウダ」
女の子の身体を舐めてからの発言としてはもう最悪だよ、それは!
しかし、相手はモンスター。
絶対そんなものじゃないので、文句を言うに言えない。
水を魔術で出して頭からひっかぶる。
「これで、良いんですよね」
「ムロンダ、ワレラガメイユウヨ。ソナタノクツウハ、ワレラノクツウトナッタ」
「この礼はまたいずれ」
「ソノトキハ、ワレラノクツウガ、ナンジノクツウトナルコトヲ、イノル」
「では、行きます。転移しますが、慣れないので失敗していくらか犠牲になるかもしれませんが」
「カマワヌ、メイユウガ、ヒツヨウトオモウノナラバ、ヤルガヨイ」
偉大と呼ばれるだけのことはあるのかもしれない。
ともあれ、これで戦力ゲットだ。
沈黙平原に影響がないざっと1000匹が俺とともにヴェルデへ向かうことになった。
「絵画・拡大」
マーカーの所に全力で転移。
「アア、イイナ。チワキニクオドル、センジョウダ」
ガリオンどもを戦場の中心へぽい。
俺は事情説明の為に、本陣へ行く。
ハーウェヤ様がそこで待っていた。
どうやらガリオンたちが来たことを早々に把握したようである。
「聖女ニメア。貴女は何をしたのですか」
「事後承諾となりますが、援軍を連れて来ました」
「ええ、見ていました。まさか、モンスターを連れて来るとは。貴女には驚かされることが多いですね」
「盟約を結んでいるので、味方です。安心してください」
俺にとってはだけど他の人にとっては安心できたものじゃないだろう。
「良いでしょう。こちらに危害を加えぬ限りは、味方として扱います」
最高聖女長であるハーウェヤ様が言えば、他の人たちは何も言わない。
言えないというのが正しいっぽいけど、余計な説明とかしなくて済むならそれでよしだ。
俺は今、猛烈に風呂に入りたいのでな!
「では、聖女ニメアは休みなさい。獣臭いですよ」
「わかっています!」
やはり水で落としただけでは、駄目なようだ。
そそくさと風呂へ向かう。
「いえ、その前にルーナたちに説明しておかないと」
まだ休んで交代を待っているルーナのところに先に行く。
「くっさ。なんだおい、なにしてきたんだ、獣くっさいぞ」
「そこまで言わなくてもいいでしょう!?」
こちとら見た目は乙女やぞ!
臭いとか言われたくないんじゃい!
「援軍を呼ぶための対価みたいなものです!」
「へぇ、あの人狼みたいなの、ニメアが呼んだのかよ」
「知ってましたか」
「そりゃ、いきなり出て来たらな。強そうだなぁ、オレ戦ってきていい?」
「この戦闘が落ち着いたらでお願いします」
「よっしゃ!」
アロナは休憩所にはいなかったから、後回しにして先に風呂へつかることにして風呂へ向かった。
「ふふふ……」
風呂に入った瞬間、背後から抱き着かれて舐められた。
「ひえぇ!?」
流石に気を抜きすぎた。
そして、抜けだそうとしても抜け出せない。
この感覚はアロナだ。
「アロナ! またですか、やめてください、今は、特に!」
「ああ。獣の匂い。とても良いと思います」
あああああああああ!
「ふふ。ふふふ。わたくし、臭くても平気です。むしろ良いと思います」
「よくないです!」
「ふふ。ふふふ。では、今のうちに楽しんでおくといたしましょう」
「いたしましょうじゃなくて! うわ、力強い! これ奇蹟使ってますね!? こんなことの為に!」
「ええ。神は万人のために力をお貸しくださいます」
「もっと貸す人を考えてほしいです!」
俺はそのまま良いようにされてしまったのであった。
柔らかかった。
でも、精神的には全然休まらなかった、ガッテム!
ちなみにガリオンの参戦の効果は大きく、多くの兵士や冒険者、他の聖女たちに休む余裕を与えることができた。
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