第48話 油断
「え、あれ、どうなった?」
「やべええ、オレやらかした!?」
ハーウェヤ様は消えた。
完全に。
幻覚ではないはずだが、どういうことだ?
完全に気配がないぞ?
「どうなったん? 倒したんか?」
「倒したと思うんですけど、というか完全にやっちゃったんですけど……」
「おい死体はどこだよ。さっさと埋めて隠さねえとまずいだろ!」
「いや、ルーナはんなんでそんなに割り切りが速いねん! ちゅうか、あんたがやったんやろが!」
「いや、死体どころか何もかも消えてるんですけど。幻覚で戦っていた?」
「ふふ。ふふふ。そういえば、昨日、殺しに行った時に、首を刎ねたのに生きてましたわ」
アロナのとんでもカミングアウトがすごいんですけど。
「ええと、まってください。首を刎ねたのに、生きていたんですか?」
「ふふ。そうです」
「最初、ルーナが襲った時も幻覚だと思いましたが……もしかして、ずっと幻覚……?」
それにしては存在感もなにもかもがありすぎた。
幻覚は物質的な当たり判定とかはないはずなのだが、どういうことだ。
そうだ、襲撃とかで忘れていたが、最初の幻覚もおかしかったのだ。
質量がないはずなのに、ルーナをのしていたあの幻覚。
「もっとよく考えるべきでしたね。空間転移で避けたとかでないのなら、あれは何だったのか」
俺の知らないこの国固有のものか、ハーウェヤ様が作り上げたロガル文字による効果によるものか。
くそ、やはり宮殿爆撃が正解だったのでは?
「その辺を気にしてなかったのがいけませんでしたね。とりあえず宮殿に戻りましょう。一応はこちらの勝ちでいいですが、ハーウェヤ様がどうなっているのか確認したいですし」
「異議なしや」
というわけで、全員で宮殿に戻ると待っていたという風に車いすのハーウェヤ様がいた。
「まさか、あのような魔術があろうとは思いもしませんでしたよ聖女ニメア」
「わたしもです、ハーウェヤ様」
余裕そうで、むかつく。
うぎぎぎぎ、ガッデム!
「では、お互いネタバラシとしましょうか」
ハーウェヤ様が見たこともないロガル文字を使う。
すると砂が集まり、人型を作り上げた。
「これは人形のロガル文字。最近、遠出できない私が作ったロガル文字です」
精密に動かせる上に、意識も乗せることができる人形を作って操る魔術であるらしい。
「これに幻覚をかぶせておけば、本物と見間違うのです。幻覚と見抜いても質量があるから簡単に油断してくれるんですよ」
うわ、えげつない。
幻覚はただの幻覚。
攻撃なんてされないと高をくくっていたら下の人形が攻撃をしてくるというのが酷い。
しかも強さはほとんど据え置き。
いや、もしかしたら本体より弱くなっているのかもしれない。
ヴェルジネ師匠とかいう人がいるのだから、この人もそれくらいできるかもしれない。
俺たち6人を相手にできるレベル。
その上、腕をもがれようが、首をもがれようが魔力さえあれば修復可能と来ている。
いいな、俺も欲しいくらいだ、それ。
「良い文字でしょう? 外出もこれなら許されて楽なのですよ、聖女ニメア」
ああ、でもなんか世話係の人とかが苦労してそうだなぁ。
そんな感じのことを思っていたら、うんうんと車いすを押していた人が頷いていた。
苦労しているらしいです。
「ニメア様は使わないでくださいね」
「まだ何も言ってませんが?」
「ニメア様の考えていることはわかります」
アイリス、鋭い子!
人形を使って遊びまわろうというのがバレている。
「核である私の方をどうにかしたら人形は消せますので、次にやる時は核を狙うことですね」
「核がハーウェヤ様の時点で、狙ったら負けでは……?」
「ふふ。どうでしょうか」
絶対、負けですよね。
それ罠ですよね!
車いすだろうと、問答無用で倒されそうな気しかしない!
クソが、これだからおばさん聖女は嫌いだ!
なんでどいつもこいつも、転生チート持ってるはずの俺より強いんだよクッソ!
やはりもっと力。
もっと力がいるんだ……。
「では貴女の番です、聖女ニメア。あの魔術は、グレイ王国の固有のロガル文字ではありませんね?」
「ええ、まあ」
グレイ王国に固有のロガル文字がないのバレテーラ。
うちの国、大抵の国が持っている文字しかもっていないからな!
「新しく作らせていただきました、ここで学んで。進化といいます」
使って見せる。
俺の姿がハーウェヤ様になる。
「肉体を変化させる術ですか」
「概ね、その通りですね」
「他人にもかけられると。ですが、その戦法を支えていたのは貴女ですね。アイリス・オルテンシア。良い技術ですね。動きが同じでしたので、どちらが本物か一瞬考えてしまいました」
戦闘では、その一瞬が命取りになる。
「いえ、所詮は劣化した物まねでしかありません」
「それでもそのおかげで私を倒せたのですから、誇っても良いと思いますよ」
「それは私ではなくニメア様の功績です」
「あと、実際に倒したのオレだからなー!」
「ルーナ・プレーナ。貴女があそこまで黙っていられるとは思っていませんでした。成長しましたね」
「そうだ、オレも成長するんだ!」
でも、これからまた騒がしくなりそうですね。
「で、あんたに勝ったんや。何かご褒美とかあるんやろ?」
勝った気がしないけどな!
次は見てろ、宮殿事ぶっ飛ばしてやるからな……!
「おや、私を倒したという名誉だけではいけませんか?」
「良いわけあるかい!」
俺としては結構、必死になってロガル文字開発とかできたし、目標があって実力をつけれたという点では問題ないと思う。
勝った気がしないという点以外はな!
でも、ご褒美が欲しいのはわかる。
俺だって欲しい。
お年玉とか、ご褒美とか、めちゃくちゃほしい。
もっと寄越せェ!
「よろしい。では、ついて行きなさい」
ハーウェヤ様は再び人形を作り、それに幻覚をかぶせてどこかへと歩いていかせる。
それについて来いということらしい。
さて、これに本当について行って大丈夫なのだろうかと思って顔を見合わせる。
「おい、何してんだ? 行かねえのか?」
「ルーナはんは、ほんま警戒心がないな……ま、行くしかないか。行かんでご褒美もらえんの最悪やし」
「なんでしょうね、ご褒美って」
「ふふ、ふふふ」
「…………」
皆行くということだし、俺も行こうとしたらアイリスがついてこない。
「アイリス、どうしたんです。行きますよ」
「いえ、私は特に何もしていませんし。ただ偽物になっただけですし……」
「何を言っているのですか。十分役に立っていました。行きますよ」
このタイプは色々と文句を言ってややこしいので強引に連れて行くに限る。
それにアレ、戦闘ダメでは? と言っていたからどんなものかと思ったが、アイリス、結構戦えていた。
本気の戦闘は初めてみたけれど、しっかりとルーナの動きについて行っていた。
もちろん俺がサポートしていたものあるが、それでも聖女について行っていたのだから、及第点以上だろう。
総合的に見たら俺とかディランとかの方が強いけれど、器用だし色々なことができるというのは十分な強みだと思う。
それに偽物とか言い出したら、そもそも俺が偽物だし。
良いじゃないか、偽物の聖女の部下が偽物とか。
うん、そういうコンセプトの話とかありそう。
「ニメア様、私は……」
「良いから良いから」
「ぐ、こうなれば……」
「このまま連れていったら死にますよ、というのはなしで」
「なぜバレましたか!?」
「そりゃ、もう結構な付き合いですし。良いですか、あなたの命はあなたが思っている以上に軽くはありませんって」
「ニメア様ああああ!」
感涙してるよ、この子。
もっと自信を持ってくれるといいんだけどなぁ。
俺なんて偽物なのに、本物以上ですけど何かって自信しかないぞ?
いつだって俺は思うのだ。
偽物が本物に勝てないなんて――誰が決めたのだと。
まあ、だから、これは俺の油断だったわけだ。
「ミツケタ」
声がした、漂う砂から。
そして、気がついた瞬間にはそいつはアイリスを掴んでいた。
「アイリス!」
「貴方は!」
俺の声に、ハーウェヤ様が反応をしめしたが、遅い。
そいつは既に、目的を遂げていた。
「おお、ついに見つけたぞ。我が愛。我が妻。我が魂の伴侶」
「な、だれだ、貴様!?」
「貴様の夫である。我が妻エスタトゥア」
人型をした砂と骨の怪物が、アイリスを捕まえて離さない。
「アイリスを離しなさい」
もちろん敵認定。
俺は即座に攻撃する。
怪物は避けもしない。
怪物の頭が消し飛ぶ。
「うるさいぞ、余の御前だ。跪け」
轟音ととに俺に砂が叩きつけられる。
全身をやすりでかけられたかのような激痛に、思わず跪いてしまう。
クソが!
「ニメア様!」
「では、行こうか」
怪物がアイリスを攫って行く。
どれほど攻撃しようとも意味はない。
頭を吹っ飛ばそうが、心臓を貫こうが復活する。
あいつが消えるまで砂に押しつぶされ続けた俺は、アイリスが攫われるのを手をこまねいてみているしかできなかった。
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