第45話 作戦会議②

 空が高い。

 こうやってぶっ倒されて空を見るのはいったい何度目だろうか。

 砂漠の空は高く、青く澄んでいる。

 俺の瞳と同じ綺麗な色だ。


 ああ、悔しいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!


「大丈夫ですか、ニメア様」

「ヴェルジネ師匠を思い出しています」


 何度奇襲しようが、寝込みを襲おうが、毒を盛ろうが、勝てなかった相手はこれでふたり目だ。

 むっかつく、ああ、あああああああああああああああ、もう!


「彼の御方はとても強かったですからね。流石は最高聖女長ということなのでしょう。私などが相手をしては、一瞬でやられてしまうに違いありません」

「どうでしょうね、いい勝負できるかもしれませんよ」

「ご冗談を」

「本当にそう思っているのですけれどね」


 ハーウェヤ様に挑み始めて1か月が経とうとしていた。

 その間、俺たちは勝てていない。

 勝ちたい、もう何でもいいから勝ちたい。

 どんな外道手段使ってでも勝ちたい。

 街の住人とかもう全員焼き払うくらいで……。


 連携が初だったので色々とそこのすり合わせもしながらだったので、仕方ないとわかってはいるが負けが込むのは良い気分ではない。

 むっかつく、勝ちたい。


「ダアアアアア、勝てねえぞ、おい!」

「色々とやってみても、対応されてますからねぇ」


 本当経験豊富な聖女は厄介だ。


「とりあえず、ハーウェヤ様を宮殿の外、街の外に追い出さないと全力を出せません。ぶっちゃけ調節めんどいので、是が非でもぶっ放せるところに追い出したいです」


 俺としてはもうこれに尽きる。

 呪いによる大威力の魔術を遊ばせておくのは非常に勿体ない。

 街中で使うのは聖女っぽくないので、外に何とか街の外に!


「自分、猫被らんくなったな」

「猫は被ってません。ぶっちゃけただけです。わたしは聖女ですので」


 うっせぇ、聖女ロールとか、勝ち続けられなきゃ意味がない。

 良いんだよ何しようが勝った方が正義なんだから!


「……まあええけど。外に出すんはうちも賛成や。街中やとルーナはんも大っぴらに動けんからなぁ」

「手加減とか窮屈なんだよ。ファラウラのヤツも邪魔してきやがるし」

「……当然だ」


 建物をぶっ壊すレベルの一撃を放とうとするとファラウラが止める。

 おかげでルーナも全力を出せず、手加減というものをここ半月で覚えていた。

 それではフラストレーションがたまるらしく、動きが雑になっている。

 少なくとも建物を壊さなくなったりしているので、聖女留学の効果はでているのかもしれない。


 まあ、真相としては壊したら、クソほど面倒な作業を強制されたりしただけなのだが。

 流石に毎日喰らっては、ルーナも手加減を覚えたようだ。


「では、どのように外へおびき出しますの? ご飯にでもお誘いいたしますか?」

「あんなぁ、バティーはん、そんなんで出てこられたら苦労はせんやろ」

「ふふふ。ああ、皆で食事。晩餐はもちろん神の血と肉を出すべきでしょう。ええ。ええ、とても楽しみです」

「あんたはなんで乗り気なん……? だいたいあのハーウェヤ様がうちらの誘いに乗るわけないやん」

「実はもう誘ってオーケーをもらっていますのけどね」

「嘘やろ!?」


 なんと、バティーが裏で何か動いていたらしい。


「どうやって誘ったんですか?」

「普通においしいご飯を毎日作っていただけですわ」

「あんた、そんなことしとったん?!」

「毎日作ってたぞ、美味かった」


 なるほど負け続けているのにあまり機嫌が悪くないと思っていたら、バティーのおかげだったのか。


「あんた知っとったんなら報告せえよ!? てかなんで喰っとるん!? バティーの料理やろ、うちらにも言えや!」


 この聖女留学であるが、自分の料理は自分で用意しろということで持ち回りでやることになっている。

 俺はまあ無難にこなしているのだが、中でもバティーの料理が1番美味い上に、デザートまでついて来る。

 当然、大人気なのだ。


 ちなみに1番不評なのがファラウラで、精進料理のようなものが出てくる。

 あれは食事というよりかは、何かの訓練みたいな感じでバティーから特に批評が出ている。

 ルーナは批評以前に好き嫌いして食わない。


 その次というかほぼ同率でルーナ。

 どっかで買って来たらしいデカ肉を焼いただけの豪快料理。

 たいていの場合、ゆっくり焼くのが面倒になって火力を上げまくり、大分焦げた状態で出される。


 あとは似たり寄ったり。

 それぞれの国柄が出るので食事の時は非常に楽しい。


「寝る前に何か食うとサリールのヤツが怒るんだよ。それにオマエらに言ったらオレの分が減るだろ」

「ああもう、ええわ。とりあえず誘い出せたのなら重畳や!」

「その時に攻め込むということにしましょうか」


 どのような人間でも食事の瞬間だけは気を抜く。

 そこを突く。


「では、段取りを決めましょう。まずは、わたしとファラウラで全力の魔術をぶつけます」


 それで倒せれば良いが、おそらくは乗り越えてくるかもしれない。

 相手のことは過小評価してはならない。

 最大限、警戒しておく必要がある。


「それで仕留められないと思うので、相手が防ぐことにかかり切りになったら、ルーナとエリャ、バティー近接組が行くってことで。必要なら、わたしも加わります」

「おう、まかしとき」

「食べ終わったら行きますわ」

「食べ終わってください。とにかく相手の余裕を削る。必要なら、わたしは都市近くへの砲撃も辞しません」

「ほんまあんた、聖女で良かったなぁ……」

「もう負けたくないんですよ! なりふりなんて構ってられないんですよ!」


 俺は勝つためにここにいるのであって、負け続ける為にここに来たわけではない。

 もっとこう力を振るって、すげえとか、あいつ化け物か……? みたいな感じに驚かれて、ちやほやされるためにいるんですぅ!


 それがハーウェヤ様には良いようにやられまくっている現状。

 我慢できるわけがなーい!

 俺はもう他国なのを良いことにやれることは全部やることにした。

 一応、イメージを損なわないギリギリだけどね。

 アイリスがなんか遠い目をしているが、皆かったことにする。


「お労しや、ニメア様……」

「というわけで、ファラウラもそれには同意してもらいます」

「……都市には絶対に当てないこと」

「わかってます。わかってますが……制御ミスったら防いでいただけると、助かります」

「…………」


 そんな冷たい目で見ないで!

 だって、ただでさえ制御に意識を食う呪いを使用するしかないところに、なぜか大量の砂漠由来の呪いまであって普段以上に魔術の調整がしにくいんだよぉ!

 おかげで俺はごり押し聖女の名を欲しいがままにしてしまっている。


 だから、俺は悪くない。

 うん、この土地と扱いづらい呪いが悪い。

 良し、オーケー。


「ふふふ。わたくしは何をいたしましょう」

「アロナは……」

「まあ、何をさせるにしてもなぁ……」


 俺とエリャは顔を見合わせて難しい顔をする。

 アロナは奇蹟と呼ばれる術を使う。

 それは彼女曰く、神から与えられる力であり、魔術よりもよっぽど強力なのだが。


「何が使えるのか、使う時になるまでわからんってのがなぁ……」


 彼女の奇蹟で出来ることは非常に多い。

 流石に死者蘇生などは不可能らしいが、遠い場所に一瞬で移動したり、瀕死の重傷をなかったことにもできる。


 ただし、どの奇蹟が出るかはランダムであるため、使ってみるまで次に何が出るのかは本人にも分からない。

 使い難さがとんでもない。

 だから、アロナの奇蹟を前提とした作戦を立てることはできない。


「えっと、好きにやってください」


 結局、彼女は好きにさせるのが1番だということになる。

 率先して仲間の盾になりにいったり、治療の奇蹟が出た場合は、回復を行ってくれたりと働くことには働いてくれるのだ。


「ふふふ。わかりました。ああ、ああ。星の香りの貴女様に言われたのであれば……わたくしは好きにさせていただきますわ」


 そこまで決めてアイリスが手をあげる。


「連携もできて来ていますので、先ほどのような正攻法の作戦も良いとは思います。しかし、相手が相手です。思う通りにできない。または、できたとしても通じない場面が多いでしょう。いくつか別案を考えておくとよろしいかと」

「確かに、そうですね。ありがとう、アイリス」

「勿体ないお言葉です、ニメア様!」

「別案、別案……そうですね……実は。もうすぐ新しいロガル文字が出来そうなんですよ」

「ああ、あんた筆記者の授業受け取ったな。で、別案にそれ使うってか?」


 俺はここ1か月、筆記者の授業を受け続けて新しいロガル文字開発に注力していた。

 その成果がもうすぐ出そうなのである。


 才能があっというよりはこの眼のおかげだ。

 ロガル文字の発動の瞬間を見続けた俺は、どの線がどのような効果を発揮するのかという理解できたのだ。

 そこが最もロガル文字を筆記する上で1番難しいところだった。


 理解ができてしまえば、あとはそこから逆算して法則を見つけられる。

 あとはどのような効果を持つ文字を作るかになる。

 そこも前世の記憶にある漫画やアニメ、小説を大いに参考にできた。


 だから、普通は数年、数十年かかるような筆記者の修行を大幅に短縮することができたのである。

 講師の先生にも才能があると大絶賛されて、いい気分である。

 マンツーマンの特別授業を組まされたのは、ちょっと予想外であったがそれも俺の筆記術習得を助けてくれた。


「もうできるとは、ニメアさんはお流石ですわね。どのような文字なのですか?」

「色々と悪さができそうな感じですよ」

「聖女が悪さいうなや!」

「ああ、ニメア様……」


 遠い目のアイリスから目をそらしつつ、俺は今作っているロガル文字の詳細を話す。


「……へぇ、面白いやないかい。絵画とは別の意味で翻弄させられそうや」

「はい。それで、ひとつ思いついた作戦があるんですけど」


 思いついた作戦をみんなに話す。


「よっしゃ、それで行こうや!」

「今度こそぶっ飛ばしてやんぜ!」

「腕によりをかけて美味しい食事を作りますわよ」

「ふふ。ふふふ」


 俺はその後、講師の部屋に行ってロガル文字の筆記に注力する。

 何をするかはわかっている。

 亡者相手に色々と見てきたものをそのまま形にする。


 ――…………。


 筆記を初めて、気がついたら朝になっていた。


「できました」

「あなたには驚かされる。聖女ニメア。まさしく天才だ。さあ、名前を付けるといい。この文字を表わす名を」


 もちろん、俺はその名を決めている。


「はい。この文字の名前は――」


 その名を講師に伝えた。


 これが別案の切り札だ。

 その効果も想いも把握している。

 問題ない。


「さあ、勝ちますよ」


 ハーウェヤ様と決戦だ。


 ここで負けたら本当に宮殿を爆撃してやるからな!

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