第43話 作戦会議①
さて、盛大に負けた後に待っているものと言えば、自分たちの部屋に戻っての治療と反省会である。
反省会の方は俺がやろうと言って、全員参加させている。
「だああ、クッソ! 絵画とかずる過ぎだろ!」
「あの人、空間魔術師やったんやね。ファラウラはんは知ってたんやろ。なんで教えてくれへんかったん?」
「……聞かれなかった」
「そりゃ、うちらも聞かへんかったけど、事前に教えてくれてもええやない」
「……人から教えてもらうばかりではいけないとハーウェヤ様も言っている」
「ああもう、融通が利かないやっちゃな!」
「まず、反省会でもしましょうか。とりあえず、駄目だったところでもあげましょう」
授業としてハーウェヤ様を倒さなければ先へは進めないのだから、悪いところは改善していかなければならないことはみんなわかっている。
人間の歴史はトライアンドエラーの繰り返しだ。
チームになったのなら、頭数を利用しない手はない。
少なくとも次に挑む誰かの助けにはなるだろう。
「ふふふ。神様への信仰心が足りていませんでした。わたくしはもっと祈りを捧げるべきでした」
「ちゃうわ!」
「相手のことをよく知らないのに戦いに行ったことですね」
相手を知り、自分を知れば百戦危うからずという言葉もあるように、戦いにおいては相手のことと自分のことを良く知ることが重要だ。
俺たちはハーウェヤ様が空間魔術を使うことを知らずにいて、それに翻弄されて負けた。
それ以外にも絶対何かしら技を持っているはずだから、まずはそこを知らなければならないだろう。
「そこらへんの改善策は、ファラウラはんからまずは聞くことや。あんた、全部話しや」
「……わかった」
ファラウラからハーウェヤ様について色々と聞いて情報を頭に入れていく。
得意な魔術は空間魔術。
空間魔術は強力な属性であり俺たちの中では、俺以外に刻んでいる者はいない。
俺なら対抗できる可能性はあるが、まず技量が違い過ぎて勝てる気がしない。
忸怩たる思いである。
絵画の他には、投擲、盾のロガル文字をファラウラは使っているところを見たことがあるということだった。
国境はヴェルデ国のロガル文字だろうか。
新しい文字を見ると刻みたくなってくる。
どうにか交渉できないだろうか。
「完全に絵画使いとなると、たぶん強化と拡大は持っとるやろうな……。誰か対抗できる奴おるか?」
「一応、絵画は刻んでありますけど、アレに対抗しろと言われても無理ですとしか。そもそもまだ全容を把握したわけではないですし、もう少し情報が欲しいですね」
「やろなぁ。とりあえず、何度か挑んでみるか」
そういうことになって反省会はお開きとなった。
●
――瞬く間のうちに1週間が過ぎた。
その間、俺たちはハーウェヤ様にぼっこぼこにされていた。
最初の3日で正攻法は通じないことがわかった。
酸いも甘いも嚙み分けたベテランの聖女を相手に、経験が足りない聖女候補らが挑んだところでどうにもならない。
もちろん俺たちが弱いわけではない。
力や速度など、とある1点では勝る部分はある。
それはまぎれもなく才能豊かな俺たち聖女候補らのアドバンテージだ。
おそらく、そういうある1点で勝負すれば負けることはないだろう。
しかし、ハーウェヤ様は巧かった。
どのような状況、どのような場所であろうとも、俺たちの得意分野では勝負しない。
そこにあるありとあらゆるものを使って俺たちに不利を押し付けてくる。
1度なにもない風呂に押し掛けたことがあったが、石鹸を踏まされて転ばされていいようにもてあそばれた。
正面からの突破はまず無理だなという結論に落ち着いた。
ガッデム!
俺は、次の4日で正攻法でない方法を試した。
毒を用意し、罠を張り、爆弾をぶつけたりもした。
そもそもからして聖女はそういう搦め手を学ばない。
基本的な仕事が亡者とモンスターとの戦いなのだ。
そういう裏の戦争の仕方など覚えたところで意味はない。
だから、ハーウェヤ様もそうだろうと思い、それで挑んだ。
結果は惨敗である。
むしろルーナが罠にかかったりと味方を自爆させたりしてしまった。
付け焼き刃が通じるほど隠居を決めるほどに戦いこんだ聖女は甘くなかった。
ガッデム!
「というわけで、もう街ごと全部爆撃しませんか? 焦土にしましょう、焦土に」
あまりにも負けが込んだ俺は、日課と化した挑んでみた報告の場でそんなことを言ってしまっていた。
「アホかアアア! 発想が物騒すぎるわ!」
「よっしゃやろうぜ!」
「あおんなや!」
「冗談です」
冗談でもないけど。
ぶっちゃけ、ハーウェヤ様が防げるギリギリを狙ってイクノティスを爆撃する。
それを防がせている間に、突っ込んで言って攻撃をしかける。
いくら強い相手だろうと、いくつもの事象に同時に対処することはできないだろう。
俺が聖女じゃなかったら、最初にやってるところだ。
あーあー、俺が聖女じゃなかったらなー。
さらにモンスターの群れもたきつけ、意識を散らしてさらに処理能力を落とす。
そうすれば俺たちでも届く可能性はある。
でも、それはできない。
俺が聖女だからだ。
あと単純に、ハーウェヤ様が防げるギリギリの爆撃とか調節できる気がしない。
ただでさえ呪い直使用で強くなる魔術なのだ。
少しでも呪いの調節を間違えたら弱くなりすぎるか、強くなりすぎるかしかないだろう。
弱くなりすぎたら意味がないし、強くなり過ぎたら、もう授業とかのレベルではなくなる。
この砂漠は妙に呪いで溢れてるから、簡単に魔術の威力が上がりすぎる。
1度気術をあげすぎてボンっとなりかけた時はマジで肝が冷えた。
「……やめろ」
ファラウラが怒気を強めていった。
彼女にとっては自国だから、自国を攻撃させるようなことは看過できないだろう。
「大丈夫です。冗談ですから」
「冗談に聞こえんのや!」
「エリャさん、落ち着いて。とりあえず、それぞれ報告を済ませた後にしましょう。ルーナさんはどうでした?」
「負けたよ。力はオレの方が勝ってんのに、あたりゃしねえ。つーかあの盾固すぎんだよ」
ドンッ、とルーナはテーブルを叩いてひびを入れる。
空間の盾は空間断絶を使った絶対防御だ。
必然的に、それを突破するには出力で上回るか、こちらも空間に干渉する必要がある。
力任せに挑んだルーナはそれに弾かれているようだ。
「まあ、落ち着いてルーナさん」
「だから、さん付けんな!」
「ほらほら、美味しいお菓子を作りましたの。これでも食べて落ち着いてくださいまし」
「うめえー!」
もしゃもしゃとクッキーっぽいお菓子を口に詰め込まれたルーナが静かになった。
改めて、続きを促す。
「ハディーは、どうでした?」
「あたくしも挑んでみましたが、巧いですわね。見切られてしまいましたわ。エリャさんは?」
「うちも似たようなもんやな、接近できへん。魔術は苦手やからな。刀が届かんと話にならんわ」
「近接系は絵画を何とかしないことには、まともに勝負になりませんわ。じゃあ、魔術で挑んだアロナさんは、どうでした?」
「ふふ。ふふふふ。とても素晴らしく打ち据えていただきましたわ」
どうやら負けたらしい。
それを思い出して自分の身体を抱きしめて、恍惚としている。
「ファラウラさんはどうだった?」
「……負けた」
「…………」
「…………」
「いや、それだけかい!」
とりあえずこの1週間、全員それぞれで挑んで返り討ちにあったようである。
そんな俺たちにアイリスが紅茶を運びながら言う。
「チームを組んでいるのですから、これは皆で挑まなければいけないのではありませんか?」
「でも、聖女候補がそんなんでええんか?」
「聖女とて人です。同じ実力の者が集まっているのですから、チームを組むのも良いと思いますが、駄目でしょうか。すみません、こんな案しか出せず……私は役立たずです……」
「アイリスの言っていることはもっともですし、そう卑下しないでください」
「ニメア様……ありがとうございます。いつでも肉盾にして使いつぶしてください!」
「それは遠慮します」
「ニメア様ああああ!」
確かに船で聖女はローテーションを組んで戦うとか言われたが、ひとりずつで挑んでこれならいくらやってもダメであろう。
「うーん、まあ、やってみよか。このままやっても堂々巡りやし」
「ならば、まずはリーダーを決めるべきかと。全員で挑むとあるなら指揮を執る者は必要です」
「アイリス、こういう場合はどういう風に決めるんですか?」
基本的にグレイ王国だと俺がトップみたいなものだったので、決める機会がなかったので、俺は知らない。
「騎士となれば階級順となりますが、聖女様方には階級がないので年齢順……も皆様同い年でしたね……となれば、実力順、経験豊富な順がよろしいかと」
「ならあたくしは、既に聖女として戦っているニメアさんがよろしいかと思いますわ」
「わたしで良いんですか?」
「良いと思うぞ。オレ、そんな面倒なことしたくねえしな! あ、でもサリール様みたいな作戦だけは立てるなよ。バーっと行こうぜ、バーッと!」
「うちもええよ。責任押し付けれるんは楽やし」
「ふふふ。神様の下にすべての者は平等です」
賛成多数で俺がリーダーになった。
「頑張ってください、ニメア様! ニメア様ならきっとできます!」
「アイリス、あとで色々相談させてくださいね」
「はい!」
指揮経験などあるはずもないが、アニメがマンガの知識で頑張るとしよう。
とりあえず、自爆特攻と寝室にモンスターを投げ込む辺りを試してみるか?
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