第40話 4人のお風呂

 あてがわれた部屋の風呂は、4人で使っても問題ない大きさであった。

 そして、かなり開放的な感じである。


 大きな浴槽があるが、部屋の壁はなかった。

 神殿は高い位置に作られているおかげで、俺たちの玉体が見られることはないようである。

 露天風呂のようなものだと考えると、イクノティスを見下ろしながら入れるのは実に良い気分だ。


 お湯を張って諸々準備完了。

 いざゆかんパライソへ!


「ヒャッホー」


 相変わらずルーナはぽんぽんぽんとさっさと脱ぎやすそうな衣服を脱いで、飛び込んでいった。


「あらあら、ルーナさんったら。仕方のない人なんだから」

「きちんとかけ湯をしなさい!」


 それにバティーと俺が続く。

 バティーはふくよかな身体をしているが、裸を見ると、こうなんともいえぬ色気がある。


 というか、なんだろう。

 何かを隠しているような気配すら感じるのはなぜだろうか。


 そして、最後にエリャが叫んでいた。


「みんな、何で裸なん!?」


 エリャはがっちがちに湯浴み着を着ていた。


「お風呂に入る時は脱がないといけないでしょう?」

「そうだぞ。なに言ってんだ、オマエ」

「あらあら、女同士ですし恥ずかしがることはないのですよ?」

「いやいやいや!? うちら家族でもなんでもないんやで!? 女同士だろうとも肌さらすんはあかんやろ!?」


 あらあら、真っ赤になって可愛らしい。

 湯浴み着のおかげで隠された肢体。

 胸は薄いが、均整のとれた身体つき。

 どこも恥ずかしいところはないと思う。

 しかし、隠されてるのでとてもえっちな気がしてきた。


 俺今生は本当、女で良かったなと思う。


「これはあざといのでは……?」

「ニメアさんもそう思います? あたくしもそう思っているところですわ」

「何の話だ?」

「もー、みんなもとりあえず隠して!?」

「嫌です」


 こう、お風呂って言うのは自由でなくちゃいけないんだ。

 誰かに指図されて、自由なお風呂タイムを制限されるなんてあっちゃいけないことなんだ。


 という戯言はおいておいて、本音は恥ずかしがってるエリャが可愛いからです。

 恥ずかしがって真っ赤になってる女の子ほどかわいいものはないのだ。


「さあさあ、恥ずかしがってないで入りましょう入りましょう」

「や、やめ、こっちくんなー!?」


 うーん、とても良い反応。

 嗜虐心が疼いて仕方ない。

 まあ、今日はこれくらいにしておこう。

 疲れているし、早く湯につかりたい。


「冗談ですよ。何もしませんから入ってきてくださいね」

「うぅ……はぁ……お風呂には入りたいし……もう目閉じとくわ」


 糸目なので閉じているのでは? とは言わないで置こう。


「じゃあ、あがるなー」

「はい、ストップ」


 飛び込んで、ばしゃばしゃやるだけで風呂を出ようとするルーナを確保。


「なんだよ。もう大丈夫だって、しっかり浴びたからな!」

「駄目です。しっかり手入れしないと聖女になれませんよ」


 なれるかもしれないが、少なくとも誰からも尊敬される聖女になるというのは無理だろう。

 容姿は結構大事なのだ。


「洗ってあげますから、ね?」

「えー」

「ほらほら、ここに座って」


 前に座らせて俺は膝立ちでルーナの髪を洗う。

 あぐらで座るのには何かしら言いたくなったが、洗うのに不便ではないから良いだろう。


「うわ、これは手ごわそうですね」


 案の定ルーナの髪は手入れをさぼっていたらしく、かなりごわごわだしクセですごいことになっていた。

 だが、そうなれば逆にやる気がでてくる。

 絶対に綺麗にしてやるという思いで、わしゃわしゃと洗ってやる。


「あはは。やめろってくすぐったいぞ、ニメア」

「動かないの、まだ洗ってる途中!」


 動こうとするルーナを必死に抑えながら髪を綺麗にしてやる。

 クローネに前にやってもらったのを見様見真似でやってみたわけだが、そううまくはいかないらしい。

 クローネに髪を洗われると、あまりの気持ち良さにはわぁーとなるのだ。


 むむむ、今度教えてもらおうかな。

 そしてあわよくばクローネにそれを使うのである。

 クローネには良くしてもらってるし、恩返しみたいなものだ。

 本音を言えば、クローネがゆるーっとなっている姿を見たいだけなのだが。


 ……クローネ、今頃何をしているのだろうか。

 なにもないと良いのだが。


「っと、流しますよ」


 洗えたのでお湯をかけて泡を流してやる。


「次は身体ですね」

「もういいだろー」 

「駄目です」

「ほんとニメアはサリールみてえなことばっかだ」


 サリールさんに1度も会ったことないのに、めちゃくちゃ親近感を抱くよ、ほんと。

 ぶつくさ文句は言うが、きちんと洗われてくれた。


 若いから肌は瑞々しく、ハリがある。

 ただ背中に大きな傷があるのが気になった。 


「ルーナ、この傷はどうしたのですか?」

「あー? それかー」

「何かあるのなら聞きませんけど」

「ああ、構わねえよ。それドラゴンに挑んでついた奴だから」

「ドラゴンに挑んだ……?」

「おう、ちょっと強そうだったから挑んでみたんだよ」


 うわぁ、戦闘バカだぁぁぁ。


 世界最強、食物連鎖の頂点であるドラゴンに挑むとは、本当にヤバイ。

 しかし、どういう結果になったのかは気になる。


「どうだったんですか?」

「負けたに決まってんだろ。魔術は効かねえ、武器も効かねえ、体内に潜り込んでみたけど、炎を吐くから内側も固い。どうしようもねえ」

「良く生きてましたね……」

「サリールがいなかったら死んでたぜ。でも、弱ってたらオレが勝ってたからな、そこは勘違いするなよニメア!」


 サリールさんの苦労がしのばれる。


「はいはい。少しはサリールさんに苦労かけないようにしてくださいね」

「はは。なに言ってんだ、してるぞ? オレはそのために強くなってるところだからな!」

「なるほど……」


 強くなってサリールさんの力になろうというのはいいけれど、もっと苦労をかけないように良い子になった方が良い気がするんだけど。

 まあでも、そういうの嫌いじゃない。


「なら、ここで頑張らないとですね」

「おう! ドラゴンでもなんても倒してやるぜ」

「ドラゴンいなくなると大変なので、倒さないでください」

「やだ、倒す」

「なら、なぜか復活してきた古代のドラゴンとか、今のドラゴンを脅かすタイプのドラゴンなら倒して良いです。はい、終わり」

「よっし、出てこいドラゴン」


 出てこないで、ドラゴン。

 もう用はないとばかりにルーナは風呂場を出ていった。


「ふふ、元気ですわよねぇ、ルーナさん」

「ですね……」

「それでニメアさん。よろしければ、あなたの髪はあたくしに洗わせてくれないかしら」

「良いですよ」


 いつもクローネに洗ってもらっているから、洗ってくれるというのなら是非もない。

 旅の間はアイリスに任せていたけれど、クローネとほぼ同じ洗い方でうまいのだが、今は従者用の宿舎の方に行っているからいない。

 あとで呼んで来ようと思っていたのだが、渡りぬ船の提案だ。

 やってもらおう。


「ありがとう」


 バティーはゆっくりと俺の髪を洗ってくれた。

 大きくふわふわとした柔らかな手と背中に感じる、ふとましさは前世の小学校よりも前に母親に髪を洗ってもらっている時の安心感に等しい。


「ふふふ、綺麗な髪ですわね。羨ましい」

「バティーのウェーブのかかった髪も素敵だと思いますよ」

「クセが強いだけだわ。朝はセットが大変ですもの」


 わかるわかる。

 クセが強いと寝ぐせが凄いことになって、直すのが大変なんだ。

 前世でそうだったから、苦労はとてもよくわかる。

 最終的に水ばーっと被って何とかしていたからな。

 こればかりはどうしようもないから、朝手伝うとかするくらいしかないな。


 髪を洗ってもらって、身も綺麗にしてから湯につかる。

 隣には溜息を吐くエリャがいる。


「はぁ……」

「溜息を吐くと幸せが逃げますよ」

「誰のせいやねん。なんで、みんな恥ずかしくないんや」

「そう言われましても、ルーナは違うかもしれませんが、バティーとわたしは基本的に誰かに髪とか身体とか洗ってもらってますからねぇ」


 文化的な違いなのだろう。

 俺も恥ずかしかったけれど、美少女と合法的に裸の付き合いができると気がついてからはもう率先して洗ってもらっている。

 女同士だから、じろじろ見てもちょこーっと怒られるだけで問題にならないのは素晴らしいだろう。


「うちにはわからん文化や」

「でも、キトゥリノでも聖女は敬われているのでは?」

「商人の国やからなぁ。大店の店主とかそういうぐらいや。金はもっとるけど、基本的に風呂なんて自分で入るもんって感じや。あとは滝行とか禊とか、そんなん」


 なるほど、確かにあまり人に肌を見せないって感じだ。

 そうなると俄然、脱がせたくなってくるのが男の性というものであるが、俺は聖女である。

 聖女ロールしている時にそんな変態行為はできないので、水にぬれて張り付いた湯浴み着から浮き彫りになる身体のラインを堪能するにとどめておこう。


 あとはこの湯を楽しむのみ。


「ああ、生き返るぅ……」


 本当に生き返るような思いだ。

 お風呂とは実に素晴らしいものである。


 食事と風呂が良ければ、あとは大概何とかなる。

 きっとこの聖女留学も問題が起こらずになんとかなるだろう。


 しっかりと風呂とみんなの裸を楽しんだ、俺はちょっとはしゃぎ過ぎていたようで、のぼせたのであった。

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