第4話 活発になっているモンスターたち
森を抜けて野営地に辿り着いて、ようやく息をつくことができた。
「ふぅ……」
流石のヴェルジネも疲労を隠せない様子で息を吐いていた。
何もしていない俺でも気疲れがあるのだから、ずっと警戒しているヴェルジネたちの疲労は俺よりもはるかにあるだろう。
「まったく、モンスターどもは活発すぎて嫌になるね」
「仕方ありません、灰のドラゴンが死んだのです。捕食者がいなくなれば、増長もするでしょう」
「ヤツも長生きだったからね。まさか、私より先に逝くとは思わなかったよ」
「さっきのオミェーラに卵が寄生とかされてないといいんですけどね」
「あれは人食み草だ、卵に寄生するほどの力はないし、なによりドラゴンの生息域とは合わないから無用の心配だよ」
野営地で息をひそめながらヴェルジネと御者はそんなことを話していた。
ドラゴンがいたが、死んでしまったからガリオンとか、ニュムパみたいなのが活発になっているらしい。
話を聞く限りじゃ、ドラゴンは最強種族っぽいので上位の捕食者がいなくなれば、被食者が元気になるのは当然か。
「それに、それならまだマシだよ。まだ、生きるんだからね。もし眠っている間にハシャラみたいなに喰われてたりしたら最悪だよ」
「あの虫は、眠ってればドラゴンだろうが、山だろうが食いますからね。でも、北にはいないでしょう」
「最近は温かくなってきたからね、気をつけておかないとうちの国でも出かねないんだよ。あの大群は私でも倒せないからね」
なにそれコワイ。
そんなヤバイやつ、本当に虫か?
やはり早々にこの世界のことを調べて、さっさと戦えるようにならなければならないようだ。
まあ、その前にモンスターに襲われて死ななければの話であるが。
野営とか、焚火とかするのかと思ったら全然火を熾さず、外套にくるまって岩陰にヴェルジネたちは蹲っているのだ。
何かあると言っているようなものだ。
「…………」
完全な暗黒の中で、そいつの気配は俺も感じることができた。
いや、感じることができたというかこの目のおかげで感知できた。
ガリオンやニュムパとかいうモンスター連中と同じ、暗闇の中に見えないが白いもやを見に纏った何かが見えている。
それはただ佇んでいるかと思えば、時折、音をたてながら周囲を歩いている。
もやの感じから人型で、何かを首にかけているらしいということはわかったが、それ以外はまるでわからない。
何もしてこないなら眠ろうかと目を閉じようとしたら、そいつは足音を立てるのだ。
それが気になって眠れやしない。
仕方ないからヴェルジネと御者を見ると、眠るつもりはないのか、視えないのに目を開けているのだ。
その後も、眠ろうとすれば足音を立て続け、夜明け頃にようやくいなくなった。
一睡もできなかったが立ち去る時、俺はその姿を見ることができた。
それは数多くの目玉を首から下げた人型の恐ろしい生き物だった。
いや、あれを人型と言っていいかは甚だ疑問であるが、シルエットが近いのが人以外にいないのだ。
足は逆関節で蹄のようなものがついていて、手などは地面につくくらいに長く、指は人差し指以外を除いてぐるぐるとねじれていた。
胴体は肋骨が露出していて人の目玉らしきものをネックレスのようにしたものをひっかけてある。
眼孔はなく顔はのっぺりとしていて、口だけがにんまりと笑ったような三日月を描いているのが酷く不気味だ。
そいつらは、まるでふざけた道化師のような足取りで、ぱらんぱらんと音を鳴らして、森の中へ消えていった。
完全に見えなくなる前に振り返ったモンスターの背後で、同じような三日月型の口が数十は浮かび上がって、消えていった。
俺にはあいつらがこういったように聞こえた。
『コロセナカッタネ、ザンネン』
この世界、相当にヤバそうなモンスターが多そうです。
「やれやれ、ローロパパガイまで出てくるなんて、あんた、何か気に入られることでもしたのかい?」
断じて何もしてません。
何かしたとしてもそれは俺の責任ではなく、神の責任ではないだろうか。
俺が転生したのは、誰の思惑かまったくわからないのである。
責任者はすぐさま、説明義務を果たすべきではないのか。
俺は求める、責任者はどこか。
「まあいいさ、さっさとオルテアまで行くとするよ」
その後も、少し進めばモンスターにぶち当たってヴェルジネと御者は必死に逃げていた。
聖女って実は弱いのかと思ったのだが、それも違う。
人間の盗賊が襲ってきたことがある。
盗賊と言っても立ち寄った村の住人が襲ってきたのだ。
目は血走り、犬歯をむき出しにして、人間バーベキューを行わんと盛大に火を焚いて襲ってきたのである。
歓迎の心が隅々まで行き届いているようだ。
どうぞ、私たちの気持ちですと同じく刃を突き出してくる様は、とても楽しいお祭りみたいだ、俺たちが当事者でなければな!
なんて世紀末だ。
ガッデム!
とりあえず、金目の物とか食料とか置いて行けと言っていたので、盗賊の類で間違いないはずだ。
最終的には食料になれと襲ってきたので、盗賊なのか食人族なのかは判断つきかねる。
どちらにせよ、俺たちにとっては敵でしかない。
そんなわけで、30人くらいの大勢で囲んできたのである。
しかも、出来る限りの完全武装だった。
まるで殺意のバーゲンセールだ。
閉店セールならよそでやってほしい。
そんな俺の願望のことごとく却下された。
殺意の在庫をあなたの顔面にシュゥートォ!
超エキサイティングな殺人集団のエントリーだ!
今なら小粋な歌もつけてやるぜ、ヒャッハー!
そんな感じに襲ってきやがった。
ガッデム!
そして結果から言うと、ヴェルジネがほぼ一瞬かつひとりで全てを粉みじんにした。
信じられないことに、俺を抱えたまま。
おかげで俺も彼女が何をしたのかわかっていた。
ただ、超高速で近づいて斬った。
それだけである。
こつこつついていた杖は仕込み杖だったらしく、何時抜いたのかわからないほどの速度で抜刀して一刀両断だ。
そして、次の瞬間にはいつの間に魔力を練って魔術を発動したのかわからないほどに高速で火が出て死体を全部燃やしてしまった。
まず間違いないくヴェルジネは強いのだと思う。
この世界の基準はわからないが、かなり上の方だろう。
そんな人が近づかないし、攻撃もしない、逃げ隠れするレベルのモンスターがこの世界にはぞろぞろいるということだ。
俺は生き残れるのだろうか。
いや、諦めるのは俺の悪いクセだ。
なにより、諦めたら容赦なくあのクソ親父の思い通りになってしまうだろう。
それだけは嫌だ、絶対ぎゃふんと言わせるのだ。
そう決意している間に、俺は目的地である王都へと辿り着いたのであった。
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