第2話 これが俺の力?
会話から探っていくと決めたはいいが赤子に何かできることはあまりなく、1週間ほどただ普通に教会で暮らすことになっただけであった。
食事の時間はかなり楽しめた。女性の胸を咥えるのって安心するのだから、女性ってすげぇえと思った。
まあ、それはさておきこの1週間で、1つ発見したことがある。
どうやら俺の目は何かしら特別であるっぽいということだ。うぬぼれだったら悲しいけど、変なものが見えるのである。
生まれた時からぼんやりと何かが見えていたのだが、今ではそれがはっきりと見える。
それは白いもやのようなものだ。
存在するだけで特になににもならないようなのだが、青い石を持っている人が何かを念じるような動きをすると、白いもやは青い石に吸収され青いもやへと変わる。
青いもやは、身体に吸収されると頭に刻まれているっぽい文字へと流れて行って、何もないのに炎が出たり、水が出たりするのだ。
そう、おそらくだが魔法だと思う。
この異世界はどうやら魔法があるらしいということがわかって、俺としては非常に楽しみになって来た。
俺は新しいものが好きだ。魔法とか元の世界にないものがあるとかとても楽しい。
そうなると俄然興味がわいてくる。
色々と観察していて気がついたことは、あの白いもやは、青のもやに変わると量が減るということだ。
おそらくだが、変換効率とかが悪いのかもしれない。
実際に試したくなってきた俺は、この1週間、起きている間、白いもやをいじくりまわして遊んでみた。
自分に取り込むのは正体不明で怖いから自由に動かせないものかと思ったわけだ。
魔力操作の練習みたいなものだ。できて悪いことはないだろう、きっと。
なにせ、それ以外にやることがないのだ。
赤ん坊は基本寝ているだけだが、完全なる人格を有した俺という存在のおかげで寝ることが中々に難しい。
本能的な眠りは仕方ないが、それ以外は大抵、動いていられる。
首もすわってない子供に筋トレとかできるわけもないので、観察したりとかしない。
色々と言ったが、ぶっちゃけ暇なのだ。
だから、とにかく色々と見えるもやを操って遊ぶという遊びをすることにしたわけである。
この試みは成功した。
白いもやは俺の思う通りに動いてくれる。
俺だけの才能かとうぬぼれることはしない。
慢心ダメゼッタイ。慢心した最強キャラがやられてきたのは、古今東西の創作で見てきたのだ。
俺は慢心しない。クソ親父を渾身の拳で殴りつけるまでは、絶対に慢心しない。
でも、これが俺だけの力だったらいい気になるだろう。
良いじゃん唯一無二の俺の力とか、かっこいいだろ。
そんな感じで白いもやを集めたり、逆に拡散させたり、ぐるぐる回してみたり色々できるようになった。
それでいつも教会で魔法を使う人がいるときに、ふと試してみたくて青い石に吸い込まれるはずの白いもやをこちらで奪ってみた。
「あれ? 発動しないぞ?」
「おいおい、魔術が成功しないとか子供かよ。何かミスったんだろ。それか、魔石が古くなってるんじゃないか?」
「この前買い替えたばかりだよ」
「じゃあ、オマエがへたくそなんだよ」
「なんだと! 魔力量が俺より低い癖に!」
「それを言ったら戦争だよなぁ!」
俺のせいで口論になってしまったが、色々わかった。
まずあの青い石を使って使っているのが、魔法じゃなく魔術だということ。これからは俺も魔術と呼ぶことにする。
それで、おそらくだが誰もあの白いもやと青いもやを認識してないってことだ。
白いもやが魔力に変換されてないからだよーと、これ見よがしに魔術を使ってる教会の人の目の前で白いもやをフリフリしてやったのに気がつかなかったからだ。
それは誰でも同じだった。
魔力に変換した青いもやをちょびっと奪ってちぎって、同じようにふりふりしても同じだったから間違いない。
誰もこのもやの存在に気がつかない。
つまり見えていないのだ。
この目は特別かもしれないということがわかって、俺は少しテンションが上がった。
だって魔眼かっこいい。
――という理由はともかく、見えないものが見えればそれを使う時に大きなアドバンテージになるのは、呪術な人気漫画からも確かだ。
もしかしたら魔力変換の効率とかをよくできるかもしれない。
いくら魔術を使っても魔力が切れないとか、相手からしたら相当な悪夢だろう。
大魔術を連発する聖女とか、かっこいいに違いない。
夢が広がるとはこのことだろう。
そんなわくわくしていたところに、ようやく王都からの使いというのが来たらしい。
ざわめきと共に、誰かが聖堂に入って来たのを感じる。
「ヴェルジネ様!?」
「聖女様自ら!?」
俺の世話をしている男二人が何やら泡食って慌てて居住まいを正していた。
どうやら、今この国にいる聖女様が来たらしい。この反応からしてもかなり立場が上なのだろう。
転生前は下っ端だったので、上の立場にいけるというのは楽しみだ。
「うるさいよ。こっちに来る用事があったからついでに迎えに来ただけさ」
しがれた声の感じからして相当な高齢であるらしいことがわかる。
こつこつと靴音の他に杖をついている音がする。
俺に影が差す。
視界に入って来たのは、髪が全て白に染まっている年老いた女性だった。
だが、しわのよった顔は衰えなど知らぬと言わんばかりで、まるで獣のようだと思った。
この人は強い。そう直感する。
とりあえず愛想よくしようと笑いかけてあげることにした。
くらえ、赤ん坊のプリティスマイル!
俺の今生の必殺技を使ってみたが、ヴェルジネと呼ばれた老婆は、あろうことか鼻で笑いやがった。
「ふん。私を見ても泣きもしない。気味の悪い赤子だね。モンスターじゃないのかい」
あろうことか人をモンスター扱い。
良いだろう、その侮辱、挑戦と受け取った。
いずれぎゃふんと言わせてやる。
ただこのお婆ちゃんの恐ろしい印象とは裏腹に、俺を抱きかかえる手は優しかった。
落ちないようにしっかりと支えてくれるし、歩き方も静かで全然揺れないようにしてくれる。
これでお婆ちゃんでなかったら、俺はきっと惚れていたに違いない。
「ふん、本当に大人しいね。まあいいさ。手がかからないのは良いことだ。面倒事は嫌いだからね」
ならば安心していい、俺は面倒をかけない。
むしろ優秀になってやる。
なにせ俺は少なくともあんたを超えなければならないのだ。
そうしなければ、あのクソ親父が何かしてきた時に大変だからな。
「まずは名前だね。聖女の名前は聖女がつけるだなんて、一体だれが決めたんだろうね、まったく」
どうやら俺の名前はこのヴェルジネにつけられるらしい。
しばし、考えたのちに彼女は投げるように名前をつけてくれた。
「ニメアだ。あんたはニメアだ。覚えておきな」
ニメア、ニメア。
どうやら今生での俺の名前はニメアになったらしい。
覚えなくてはなるまい。今までは、飯島真司と呼ばれてきたから、他の名前で呼ばれると反応できないかもしれない。
ニメア、ニメア。しばらく自分で自分に言い聞かせよう。
名づけも終わったら、俺はヴェルジネに連れられて生まれた村を出た。
インフラント騎士爵が見送りに来るものかと思っていたが、未練がわかないようにそういうものもないようだった。
「さて、王都まで何事もなければいんだけどね」
乗せられた馬車の中でヴェルジネがものすごいフラグっぽいことを言っていた。
そして、それは当然のように成立して、俺の乗った馬車はモンスターに襲われることになった。
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