第1話 転生したら、いきなりすり替えられた
恥の多い人生を送ってきましたと太宰は言うが、飯島真司は恥どころか何もない人生を送ってきました、と本にするならそう書かなければならないだろう。
俺の人生は本当に特筆すべきことは何もない一般人だ。
特別な才能もなければ、特別な生まれもない。
普通の生まれで、普通に普通の普通な人生を生きた普通の人間である。
何か特筆することがあるとすれば、TRPGが好きなことと負けず嫌いなところくらい。
他にはなにもない。
信心深さのおかげで神様に気に入られることもなければ、仏様と共に涅槃へ至ったということもない。
トラックに引かれそうに否った神々のペットを助けたという徳もない。
このような事態が発生することはない。
そのはずなのだが――。
俺はどうやら転生とやらをしたらしい。
しかも、今流行りの異世界転生だ。
テンプレまっしぐら、ありきたりな小説展開が、デンプシーロールしながら左フックを入れてやって来た。
しかし、そう簡単に信じてはいけない。
何事も石橋を叩きすぎて落とすくらいでちょうど良い。
そう、夢かもしれないのだ。
こうしたリアルな夢は何度も見てきたから、そんなに珍しいことではない。
ただ普段見る夢のような、夢を映画のように端から見ている感覚がないのには、違和感を感じた。
小骨が喉に突き刺さって、ブレイクダンスをしているくらいの存在感だ。
うーむ……なんだこれは?
そう疑問に思うが、そんな俺の困惑をよそに事態は進んでいるようだ。
俺を抱きかかえた産婆らしき人が、俺の親を呼んでいるらしい。
言葉はなぜかわかった。
もしかしたら転生チートって奴かもしれない。
もっと良いものがあることを祈ろう。
言語チートだけで異世界を生きていけるほど俺は強くないぞ。
それより大丈夫か、産婆よ、腕がぷるぷるしてきたぞ?
取り落とさないでくれよ、転生した直後に死亡とか流石に笑えないのだが。
もう少しで取り落とされそうになった時、ギリギリで俺の転生した先の親父が登場したらしい。
不気味な男だった。幽鬼みたいな見た目で、こんなのが親父かと落胆したほどだ。
しかもなんかもう完全に俺に愛がない感じ。妻がどうやら亡くなったというのに、まったく気にしていないのもことさら人でなし感に拍車をかける。
話を聞いているとどうやら俺を聖女とやらにしたいらしい。
つまり、俺は女のようだ。
そうか、女か…………。
俺は落ち込んだ。
使わずに大事に取っておいた、マグナムを奪われたからである。
最悪だ、せめて1度は使いたかった。
そんな風に俺が落ち込んでいると従者か誰かがやってきて、インフラントの家で聖女が生まれたとかクソ親父に伝えていた。
クソ親父激昂。
まさしく怒髪天とはこのことで、うねってた髪が天井に伸びていくようだった。
正直、その様を見るとすっとした。
ザマァ! といい気分になれた。
ただ投げ捨てられそうになったのだけは勘弁だった。
従者の人に助けを求めたが従者の人は早々にエスケープしていたので、必死にしがみつく羽目になった。
転生して二度目の死の恐怖を味わうことになるとは、誰も思うまい。
マジで死んだら化けてでも出てやるからな。
てか、待てクソ親父、片手で持つなヤバイ、色々姿勢がヤバイ!
赤子を片手に何やら考え事をしているクソ親父にこれまた何とかしがみついている間に、馬車に乗って教会にやって来た。
馬車の外を見たかったが、生憎カーテンがあって見えなかった。
馬車から下りても暗すぎて何も見えない。
少なくとも電気があるような場所ではないことがわかったってことで良しとしよう。
俺とクソ親父はそのまま裏口から教会に入って神父と合流。
人の良さそうな神父に案内されて預言者というのに俺は見せられた。
どう見てもこの預言者さん呪術師とかそっち系の人なんですけど。
首から何の頭蓋なのかわからないもの繋げてるんですけど。
預言者ってこんな感じでいいの?
と思っている間に俺の鑑定が済んだらしい。
やっぱり聖女じゃなかったって、ザマァだぜクソ親父。
聖女が欲しいのに、部下の騎士に先越されてどんな気持ちィ! ってすごく煽りたかったのだが、声がでないのでできなかった。
声がでててもきっとしなかっただろう。
クソ親父はなんと剣を抜いて預言者と神父を殺したのである。
躊躇がない辺り凄く慣れている。
こんな相手を煽るほど俺は図太くない。
そのまま聖堂に連れていかれて俺はそこで眠っていた赤ん坊と入れ替えられた。
そんで偽物として処断されろとか言われた。
何やらインフラントさんとかいうのを陥れて自分が高い地位につこうとか考えているっぽい。
俺はあんなクソ親父に従うもんかと思った。
そもそも、処断されろとか言われて、はいそうですかと従う方がおかしいだろう。
これは明確に勝負をふっかけられたと言って良い。
なら負けるわけにはい行かない。
だが、俺は転生した。
生まれた時から俺という意識がある。
これは大きなアドバンテージだ。
肉体のスペック次第であるが、クソ親父のことだ、きっと色々やっていたに違いない。
きっと高いスペックのはずだ。
高いスペックであってください、お願いします!
願望がはいったが、俺は絶対に偽物として処断されてやらない。
むしろ、本物以上に完璧な偽物の聖女として君臨してクソ親父をぎゃふんと言わせてやる。
そのためにもこの世界のことを早々に知り、効率的に力をつけなければならないだろう。
なにせ、俺はこの世界のことを何一つ知らない。
会話とかで色々と探っていこうと決めた。
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