第18話毎回同じ返事をする
あのカイザル・ユリウス・レオポルト殿下がわたくし如きにどうこうするとは思えないのだが、それでも何もしないよりかはマシであるし、かなり心強くもある。
それに、ブレットの予想した展開が万が一無いとも限らないのだ。
わたくしの後ろにいるランゲージ家の得た巨万の富とそれによる権力をカイザル・ユリウス・レオポルト殿下側に着く貴族が裏で糸を引いている可能性だって無いとも言い切れない。
そもそも、一度婚約を破棄した相手にパーティーを誘う、それも自らが主役のパーティーに誘うなど非常識にも程があるにも関わらず実際にこうして誘って来ているのだ。
そしてカイザル・ユリウス・レオポルトは『婚約破棄をされて可哀想だ』という理由だけでマーシー・インスと婚約をし、代わりにこのわたくしを今度は婚約破棄をしたような思考を持つ男なのだ。
今更、一度婚約破棄をした相手に対してもう一度婚約を申し込むなどという無礼な行為を、まるでそうするのが善であると言わんばかりにしてくる可能性を否定出来ないような男なのである。
今となってはこんな価値観を持つ男性の伴侶となり生涯共に過ごすなど絶対に嫌であるし想像もしたく無いので婚約破棄をされて嬉しいとさえ思っているし、今このタリム領の発展をわたくし自らが行い、そしてそれを眺めている生活もかなり気に入っている。
もしあのまま婚約破棄をされていなければわたくしが政や領地経営等に携わろうとすれば『女性がすることでは無い』と一蹴されて終わりであろう。
それに比べて一切そのような、わたくしの事を『女性だから』と指摘して来ないわたくしの両親や使用人達、そして今わたくしの隣にいるブレット達は感謝してもしきれない大切な存在である。
因みにわたくし宛に届いたこの手紙をお父様に見せると、憤怒の表情をしていたので面白くなりそうですわ、と思うのであった。
◆
俺の元婚約者であったシャルロット・ヨハンナ・ランゲージを婚約破棄してから早三年経った。
新しく迎え入れた今の俺の婚約者であるマーシー・インスは初めて見たその時と変わらず今尚美しく、そして聡明であるのだが、その表情はいつも何処か影を感じてしまう。
その理由を聞いても『何でもございません。 あろうはずもござません。 あの時婚約破棄をされ、全てを失ったあの時と比べれば今の私の生活は余りにも満たされ過ぎておりますもの。 これで尚不満等口にしようものならばきっと天罰が下りますわ』と、毎回同じ返事をするだけである。
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