第19話寧ろ喜ばれる事

 いつも政に口を挟んでこようとしていたシャルロットとは大違いである。


 別に彼女の事が嫌いであったとかでは無いのだが、男の仕事である政まで女性であるシャルロットが口を出してくるには鬱陶しく思っていた事も確かである。


 その事を考えればシャルロットと婚約破棄をしてマーシー・インスと婚約をできた事はまさに幸運であったと言えよう。


 良い拾い物をしたものである。


 しかしながら、三年前と比べて弟との後継者争いが激しくなり始めたのも事実である。


 それと伴いシャルロットの実家であるランゲージ家が統治しているタリム領の発展が目まぐるしく、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いである。


 もし弟がシャルロットと婚約をした場合、後継者争いに負けてしまう可能性も高くなるだろう。


 こっちを立てればあっちが立たず、あっちを立てればこっちが立たず、うまく行かないものである。


 そう考えていたその時、俺は口癖のように言っていたマーシー・インスの言葉を思い出す。


『あの時婚約破棄をされ、全てを失った』


 確かこう言っていた筈である。


 ならば今、俺に婚約破棄をされたシャルロットは全てを失ったという事では無いか?

 

 そう思うと少しばかり罪悪感を感じてしまうのだが、だからこそ救ってあげれるのも俺だけだという事である。


 今一度婚約を申し込めば、もう誰も悲しむ事も無いだろう。


 確か、婚約破棄をする時に金輪際シャルロットと関わらないように契約していたような気がするのだが、王位継承権第一位であるこの俺が自ら婚約を申し込むのである。


 ランゲージ家が断る理由も無ければ寧ろ喜ばれる事であろう。


 そうとなれば弟に先を越される前に行動あるのみである。


 そして俺はシャルロット宛に手紙を書き始めるのであった。





「ここへ来るのも久しぶりですわね。 正直な話、もう二度と来たくはなかったのだけれども、わたくしの元婚約者はわたくしが思っていた以上に脳みそがスカスカだったようですわね……。 そもそも、婚約破棄されて可哀想だから隣国の公爵令嬢と婚約して、その代わりにわたくしと婚約破棄をするってどういう事なんですのよ。頭狂ってるとしか思えませんわ。 あ、頭スカスカだったんですわ。 それなら仕方ないと諦めもつくのですけれども、一生関わるなと釘を刺したにも関わらずこうして手紙を送り、パーティーに誘うとかスカスカどころか腐っていてもわたくしは驚きませんわっ」


 馬車に揺られて四日、目の前にうっすらと王城とその城下町が見え始め、ただでさえイライラしているわたくしの感情は更に苛立ってしまい、その感情を溜め込んでしまう前に本能的に溜まったストレスが口から滝のように出てくる。

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