第15話幸せな一日
しかし、だからこそここで暮らすには何個か条件が必要だとギルド受付嬢さんに説明して頂いた。
一つ、金銭的に苦しい事が証明できる場合。
一つ、必ず就職活動をする事。
一つ、家賃は絶対に支払う事。
一つ、一日でも家賃の支払いが滞った場合は強制退去する事、もし支払えない場合は事前にギルドに相談する事、その場合は支払いが滞った場合でもギルド職員が家賃が滞ってしまう正当な理由があると判断した場合に限る。
一つ、新しい職場が決まるまでは領主様が運営する工場で働く事、但し賃金は低い。
これら五つを守れない場合は強制退去させられるので注意が必要との事である。
縛りはあるもののはっきり言って以前の暮らしよりかは何倍も人間らしい生活が出来ると思うと文句などあろうはずも無く、寧ろ感謝しか無い。
因みに低賃金と言われる領主様が運営する工場なのだが、以前働いていた酒場の手伝いよりも倍以上良いので、この工場で働く事にも文句は無いし、働き口があるだけ幸せというものである。
そして、低賃金(私はそう思っていない)な理由は、ここで差し引かれた分が貧困層の支援や街の修繕などに回されるからだそうだ。
そして、ここの宿を見ただけで、差し引かれた給料がしっかりと本来の目的で使われているという事も理解できるため、差し引かれると言っても文句はない。
むしろ前の領主の様に、自分達の私腹を肥やす為に無駄使いされるよりもよっぽど好感が持てるというものだ。
そして驚く事に、ここタリム領では12歳以下の子供を無償で預ける学習塾が存在するのだ。
コレならば私は昼間から安心して働きに出る事が出来るというものだ。
そして、タリム領に来てから一ヶ月が経った。
今日は初めて就職できた職場に初出勤する日である。
手伝い人や丁稚などと言ったものではなく、就職だという事に未だに実感が湧かない時がある。
工場での仕事もそれなりに充実していたのだが、やはり自分で決めた職場で働く事が出来るというのはまた違った充実感があるものであるし、どこか誇らしくもある。
「母さん行ってきます」
「行ってきますっ!」
「はい、行ってらっしゃい」
そして『すーつ』という服に着替えた私は、化粧をしながら子供達が元気よく部屋を出て行く声を聞き、思う。
今最高に幸せであると。
あの時、藁をもすがる気持ちでタリム領へ行く事を判断した私を褒めてあげたい。
「ん? ……あっ!! お弁当ーーーーっ!! 二人共お弁当忘れてるわよーーーっ!!」
そして今日も幸せな一日が始まる。
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