第14話摩訶不思議な素材で作られた建物

「成程、本日ここタリム領へご家族と一緒に来たは良いものの、それに全ての財産を使い果たし着の身着のまま訪れた為、今日借りる宿も今日食べるご飯も買えないという状況ですか……かしこまりました。 通行手形にはまだ犯罪歴や過去問題を起こした事を示すマークも無い事ですし、とりあえずここの領主様が運営する安宿をご案内いたしますね」

「りょ、領主様が運営……ですか? しかも安宿を……」


 どうやら何とか寝床だけでも確保できそうだと胸を撫でおろしていたのだが、次いで聞こえて来るギルド受付嬢の言葉に私は聞き間違いではないかと耳を疑う。


「そうなんですよ。 しかも安宿の為赤字経営らしいのですがそれら全て領主様が負担しているようです。 本当に神様みたいなお方ですね。他にも様々な事をしてくださるようになった為、ここ最近ではあなたのようにタリム領へ訪れる方が急増してまして忙しい毎日です」


 そう言いながら忙しいと最後には愚痴をこぼす受付嬢なのだが、その笑顔はどこか自慢げで、今の仕事とこのタリム領に誇りを持ち、そしてタリム領の領主様を敬っている事が伝わって来る。


「あ、ありがとうございます」


 そして寝床どころか、教えてくれた宿屋では昼と夜のご飯は無料で提供されると知り、食べ物にも困らないと分かると、今まで鬱屈していた感情が一気に晴れやかに変わって行くのが自分でも分かった。


 そして受付嬢に教えられた道を、渡された地図を片手に歩いていく。


 そして子供たちと十分ほど歩くと、言われた通りの建物が立っていた。


 受付嬢曰く灰色の石のような建物で一目見れば分かると言われたのだが、これは確かに一目見たらすぐわかる作りの建物であった。


 その建物は『こんくりーと』なる泥のようなもので、たった数日で建てられたのだそうだ。


 その建物はまるで一枚の岩をくりぬいて作ったかのようで、はじめこそ『泥のようなもの』と言っていた為、田舎などにたまに見る壁が泥で出来た一般的な宿を想像していたのだが、壁を触っただけでかなり固い事が分かるくらいには強度があるようだ。


 確かに、こんな摩訶不思議な素材で作られた建物など見たことが無い。


 宿屋の受付で受付嬢さんから頂いた紙で出来た手紙を渡すと、部屋番号が書かれたカギと、その部屋への行き方を軽く教えてくれた。


 その教えてくれた部屋へと行ってみると、安宿とは思えない程広く、そして綺麗であった。


 さすが領主様が運営している宿なだけの事はある。

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