第257話 俺の知っているクロード姫ではない
「ではわしはカイザル君のおかげで『自分の采配一つで国民全てを不幸にするかもしれない』という重圧から解き放たれ、さらに毎日が休日になるのじゃ。 これでも一応感謝しとるよ。 それでは、次会うときは皇位を継ぐときじゃな。 その時までしばしの別れじゃの。 あ、わしを卑怯者とは思うまいな? 魑魅魍魎跋扈する貴族世界ではこういう化かし合いこそ日常であるからな。 カイザル君も貴族の端くれであるのならば騙された自分を責めるのじゃな。 では、さらばじゃ」
「『では、さらばじゃ』じゃねぇよっ!! チクショウォォォォォオオッ!!」
そして、俺の叫び声が虚しく実家の邸宅に響き渡るのであった。
◆
「チクショウッ! 騙されたっ!! あのたぬきジジイめっ!!」
「まぁまぁカイザルよ、もう決まってしまった事は今更叫んだところでどうにもならないのならば諦めようぜ? どうせならその叫ぶ労力はこれからどうするか考えることに使おうぜ?」
皇帝陛下のたぬきじじいが去っていった後、俺は部屋から一歩も出る事なく絶叫していた。
そしてそんな俺に落ち着くようにクロード姫が馴れ馴れしくも話しかけてくるのだが、なんでこいつはこんなにも落ち着いていられるのか意味が分からない。
「お前……よくそんなに落ち着いてられるな。 俺と結婚するって事だぞ? そして皇位を継ぐのはクロード、お前ではなくて俺なんだぞ? そして皇位を継ぐって事は俺とお前で子供を作らなければならないって事何だぞ? そこらへん分かっているのか?」
「うん? まぁ、理解しているつもりではあるんだが?」
「……………そ、そうか」
「あぁ、そうだよ。 お前こそどうしたんだ? カイザル」
おかしい。
明らかにおかしいではないか。
こんなの俺の知っているクロード姫ではないはずだ。
俺の知っているクロード姫はまず、皇位を継げない時点で癇癪を起こして、子作りで切れて、暴れ出すはずである。
にもかかわらず目の前のクロード姫はほんの少しだけ顔を赤らめながらも、なんだかんだで全て受け入れてしまいそうな雰囲気すら感じてくる。
「あぁ、そうか……」
「ん? どうした? 良い案でも思いついたか? カイザルよ」
「いや、そうではないがクロード姫、お前風邪引いてないか? 顔が赤いぞ」
「いや、そんな事はないとは思うが……? 確かに胸が時たま『トゥンク』と脈打つくらいで、その他はいたって普通だと思うぞ?」
「それ、不整脈なんじゃないのか? なるほど、そのせいで頭に酸素が行き届いてないのだな。 まったく世話が焼ける奴だ。 治してやるからこっち来いよ」
「きゃっ……ンンッ、すまんな、少し変な声が出たみたいだ。 何でもないから気にしないでくれ」
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