第258話 女体化

 え? 何さっきの声……。 俺がクロード姫の肩を掴んで引き寄せたらまるで初心な乙女のような反応をされたんだが……いや、まさか……そんな事があっていいわけがない。


 そもそもクロード姫は精霊契約で女体化されたのであって記憶まで改竄された訳ではないのだ。


 そのため男性として生きてきた記憶がクロード姫にはあり………。


 そこまで考察したところで俺は何かとても大切なものを見落としてしまっているような感覚になってくる。


 一体それは何なのか。


 男性として生きてきたことでもなければ、その記憶を改竄されていないという事でもない。


 そして俺は一つの事に引っかかってしまう。


 女体化。


 確かに精霊契約でクロード殿下に執行されて罰は女体化であった。


 それは間違いないし、何よりも俺がそういう罰に設定したのである。


 であれば、女体化とは何なのか。


 ここまで考えた俺は一気に血の気が引いていくのが自分でも分かる。


 きっと今俺の表情を誰かが見たらきっと心配してしまうぐらいには青ざめているだろう。


「お、おいカイザル? 本当に大丈夫なのか? さっきからお前なんかおかしいぞ。 顔だってこんなに青ざめて……よ、よかったら俺が看病してやろうか?」

「いや、大丈夫だ。 本当に大丈夫だから、そっとしてくれるとありがたい」

「そ、そうか。 お前がそういうんならそうするけど、本当に耐えられそうになかったら俺を頼ってくれよな。 べ、別にお前の事が大切だとか心配だとかじゃないからなっ!! お前の奴隷達の為に言っているだけだからなっ!!」


 うーん、このツンデレは一体誰得なのだろうか?


 しかしながらこのクロード姫の反応を見るに俺の仮説がより正しいものだと思わざるを得ない。


 そもそも女体化とは何を持って女体化なのか。


 身体だけが女性になって、心が男性である場合は果たして女体化というのだろうか?


 いや、前世での日本ではそれは女性とは言わずトランスジェンダーというカテゴリーに分けられるはずだ。


 これが果たして女体化と言えるだろうか? 俺は言えないと思う。


 それは女性の身体ではなくてトランスジェンダーの身体であるからだ。


 そこから導き出された俺の答えは、クロード姫は身体だけでなく心で女性になり、正真正銘の女体化をしてしまっているのではなかろうか? というものである。


 そうなれば、俺が当初考えていた『クロード殿下も心は男性だから俺との婚約はさすがに解消しようとするだろう』という考え自体が破綻している事になってしまうではないか。


 俺は、取り返しのつかないミスをしてしまったのかもしれない……。

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