第138話 あぁ、頭が痛い。

「そもそも何なんですか。 さっきから聞いてたら、ご主人様に対してまるで試すかのような言動、許されるとでも思っているのですか? 普通に考えてあり得ないでしょう。 一体カレンドールは何を考えているのですか? あの日修練場でカレンドールは何を学んだんですか? ご主人様と相対した時何も感じるものは無かったのですか? 頭に脳みそは入っているのでしょうか?」


 そして怒涛の勢いでカレンドールさんに対して、まるでカレンドールさんの方が間違っているかの如くブリジットが上から目線で講釈を垂れ始めるではないか。


 違う、ブリジット、そうじゃない。


 と心の中でブルジットに向けて叫ぶ。


 するとブリジットに俺の思いが通じたのか、ブリジットは俺の方へ顔を向けて『わかりましたご主人様っ!! このブリジットに任せてくださいっ!!』と言わんばかりに目をキラッキラにしながら答えてくれる。


 その姿はまるで大好きなご主人様に命令されて喜ぶ犬の用ではないか。


 はっきり言って不安でしかない。


「あら? 私はブリジットさんに聞いているのではなくてカイザル様に聞いているのですよ? そもそも私とカイザル様の会話を盗み聞きは流石にどうかと思いますが? いち奴隷として躾がなっていないのではなくて? まさに駄犬ね」

「何も分かっていないのはあなたの方ですよ? カレンドール。 優秀な犬というのはご主人様に命令される前に動き、そしてご主人様の手間を取らせない事こそが優秀な犬なのです。 そう、ご主人様に呼ばれる前にご主人様の元へと馳せ参じ、カレンドールという羽虫をご主人様の代わりに追い払うこの私のようにっ」


 カレンドールさんの言葉に対して自信満々に答えるブリジットなのだが、どう考えても優秀な犬VS駄犬の構図にしか見えない。


 勿論優秀な犬は俺をここまで理詰めで追い詰める事が出来たカレンドールさんで、駄犬は来て早々にご主人様である俺が言い訳すら出来ない程の爆弾を良かれと思って投下しまくっているブリジットの方である。


 あと頭に脳みそが入っていないのもブリジットの方である。


 本当に筋肉しか入っていないのではないかと割とガチで心配になってくる。


 そして俺は思う。


 頼むからもうブリジットは喋らないでくれ、と。


「なら、黒い仮面の君はここにいるカイザル様で間違いないという事でいいかしら?」

「先程からそう言っているでしょう?」

「カイザル様? 先程からそうブリジットさんが言っているみたいですが、それでもまだシラを切るのかしら?」

「言い訳のしようもないな……これでは」


 そして俺は自分が黒い仮面の君である事を認める。


 あぁ、頭が痛い。

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