第139話 滲み出るポンコツ具合

 いや、まだ諦めるにはまだ早い。


 ブリジットはあとでしっかりと注意するとして、まだ策がないわけではない。


 俺が黒の仮面の君である事は認めるが、婚約の件は普通に断ればいいだけだ。


「確かに、俺はあの時黒の仮面を付けてカレンドールさんを助けた。 けれども、それと俺とカレンドールさんが婚約するのとはまた別ではないか? それに、俺が黒の仮面の正体とカレンドールさんに知られたところで──」

「こうなってはスフィアさんにバラすしかなさそうね」

「…………は?」

「スフィアさんに一切合切全てバラすしかなさそうね。 今ここで婚約を結んで頂ければ全てスフィアさんにバラします。 黒の仮面の君の正体から、婚約破棄の理由、そしてカイザル様の素晴らしきお考え。 その全てを私が知る限り懇切丁寧にバラしましょう。 それこそ、実際に婚約破棄をされた側でしょうしカイザル様の周囲からの評価などで信じようとはしないでしょうけれども、その偏見もろとも覆せて真実をスフィアさんに信じさせて見せあげるわ」


 それは、ちょっと……いや、かなりやめて欲しい所である。


「そうなると俺はお前を殺さなくてはならなくなるぞ」


 しかしながら話し合いで解決できなければ武力で脅すしかないわけで。


 あまりこういう手段は使いたくないのだが、こうなってしまっては仕方がないだろう。


 それもこれも全てブリジットのせいであり、俺のディベート力が無かったせいではない。 ブリジットがやらかしたからである。


「ならば、今殺してみてはどうでしょう? 恐らくカイザル様はそれができない程お優しい人物であると私は知っているわ。 でなければスフィアさんに対して婚約破棄の原因となった事件で無傷で救出出来たなどあり得ないわ」

「それだけではございませんっ!! 合宿でスフィアさんは賊に襲われたのですがそれをご主人様であるカイザル様が颯爽と助けたのですっ!!」

「うん、そうだね。 ブリジットは少し黙ろうか」

「はいっ!! 黙りますっ!!」


 そしてブリジットは嬉しそうに返事をすると自信満々な表情で口を紡ぐ。


 その自信満々のブリジットを見て、なぜかブリジットが自信満々であればあるほど不安になってくる。

 

 何だろう……この滲み出るポンコツ具合は?



「その事件は知っているわ。 そしてその事件がスフィアさんが黒の仮面の君にお熱になった要因であり、故に毎日五回はスフィアさんが語るものですからもう耳にタコができそうですもの。 では、そういう事で、ここで私を殺すか、スフィアさんに全てバラされるか、それとも私と婚約を結ぶか選んでください。 あ、勿論私と婚約する場合はちゃんと秘密保持のためにカイザル様の奴隷となるわ」


 そしてカレンドールさんは俺の前で跪き、頭を垂れ、首を差し出すではないか。


 どうしてこうなった。


 そう思いながら俺は苦渋の決断を下し、新たにカレンドールが俺の奴隷となった。


 

 

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