第66話私はもうっ! どうなっちゃうのかしらっ!!
◆
ご主人様がクロード殿下とかいうクソ雑魚ムシを救出するというデートから一週間が経った。
結局、ホーエンハイム家の悪事をバラす事ができ、ホーエンハイム家を潰す事は出来たのだが今回の事件の首謀者であるウィリアムを捕まえる事は出来なかった。
そんな中、私メリッサは今日もご主人様の為に働いており、現在の主な仕事は奴隷達へ暗殺技術の伝授である。
そんな私は元クヴィスト家のメイドであり、暗殺もお手の物。
皆の憧れの戦闘メイド、それが少し前までの私であった。
あの頃は確かに充実した毎日を送れていたと思っていたのだが、ある日を境にそれまでの日常は白黒であり、味気ないものであると気付かされてしまった。
いうなれば塩も胡椒もソースもつけていない、ただ焼いただけのステーキと同じである。
不味い訳ではない。
けれども塩胡椒やソース等と言った味の付いたステーキを食べてしまったら、もう焼いただけのステーキには戻る事が出来ない。
それを教えてくれたのが何を隠そうカイザル様なのである。
あぁ、今でも鮮明に思い出すあの日を。
粗相をしてしまい、その上で土下座をするあの高揚感。
心臓にナイフを突きつけられたかのような殺気に、死しか選択肢が無いと分からされた圧倒的なまでの強さ。
逃げる事も、反撃する事も出来ず、ただ、自分の粗相した液体に染みた地面の上で許しを請う事だけが許されたあの至福の時間でもあり、甘美なる蜜月の時間でもあった。
今でも鮮明に思い出せ、そして思い出してしまうと私は恍惚な表情を浮かべながら身悶える。
そう、あの時あの瞬間私は強く『生きている』という事を実感させられ、そこから許しを得た時私の身体に深く刻み込まれたのである。
そして津波のように押し寄せて来る幸福感。
死を強く実感したからこそ感じる事ができる、今生きている事の喜び。
この感情を知ってしまった私は、以前のような死も生も意識せず、ただ日常を浪費する日々には戻る事などできない。
あぁ、カイザル様、ご主人様、神様。
どうかこの卑しい私に今一度あの幸福感を味わせて欲しい。
カイザル様を見るだけで、あの時の事をフラッシュバックしてしまい恐怖を、その次に幸福感が襲ってくるのだが、それでもあの日感じたものと比べてしまうと劣ってしまう。
「はぁ、どうしたものかしらね」
私の欲望を満たすためにはどのようにカイザル様にお伝えすれば良いのか?そもそも奴隷の分際でご主人様におねだりをしても良いのだろうか?
けれどこれでお仕置きとかされた時には私はっ、私はもうっ! どうなっちゃうのかしらっ!!
「どうしたの? メリッサ。溜息なんか吐いて。 珍しいじゃない」
「ジュ、ジュリアンナ……んんっ。 な、なんでもありませんよ」
「そうでしょうか? 私には何か思い悩んでいるように見えましたが、いえ、メリッサが話したいと思ったその時まで待ちますわ」
「ありがとう、ジュリアンナ。 でも大丈夫なのは本当よ? ただ、ご主人様の事を思っていただけなの」
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