第65話そんな頭の悪い人なんているのだろうか?

「何もされていないか?」

「は、はいっ!! 黒い仮面の君に捧げる予定の私の身体は清いままですっ!!」

「は? ……………………いや、問題ないのであればそれでいい」

「はいっ問題ないですっ!! いつでも結婚できますっ!!」

「いや、あの……うん、それは、たぶん吊り橋効果とか危ない所を助けられたとかいうバイアスがかかってしまっている状態だろうから落ち着けばまた正常な判断ができるだろう。それに、今あなたが好意を寄せているクロード殿下もこの場にいるんだ。 正気に戻って後悔が無いように、発言には気を付けた方が良い」

「ご忠告ありがとうございますっ!! しかしあんなゴミムシの事などもう知りませんっ!! むしろあんなゴミムシに今まで好意を寄せていたのだと思うと過去の記憶を全て消し去りたいほど悔やんでも悔やみきれませんっ!!」

「あーーーー…………うん、何があったか聞かないが俺は止めておいた方が良い。 きっと仮面の下を知れば君はきっと後悔するだろう。 だから後悔する前に今突発的に湧き上がっている気持ちに蓋をしておく事だ。 何度も言うがその気持ちは正常な判断の元で生まれてた感情ではない偽りの感情なんだから」


 なぜだろう? 頑なに黒い仮面の君は私の気持ちを受け取ろうとしない。


「はっ!? これはきっと、私達にはまだ乗り越えられなければならない試練があり、それを乗り越えるまで待っていて欲しいという、そういう事ですねっ!!」


「違うよっ!? あえて突っ込ませて貰うけど、違うからなっ!! おいなんだその『私、分かってますから』という目はっ!! その目を止めるんだっ!! そして頼むから人の話を聞いてくれっ!!」


 きっと、彼はシャイで、恥かしがり屋だから自分の本心を言うのは苦手なのだろう。


 こういう時こそ女性側が男性を導いてやらなければいけないと、私は昔母上に教わったのだが、その意味をこの年にしてようやっと理解できた。


 母上は『時に殿方というのは、恥かしがり屋で、天邪鬼で、そして口下手故に想いとは全く違う言葉を口にする事があるのです。 そういう時を見逃さず、言葉に惑わされず、しっかりと殿方の心を見て判断なさい』と仰っていたのだけれども、まさか本当の事だとは思いもよらなかった。


 それこそ、そんな人なんているのだろうか? と当初は聞き流していたほど、真に受けていなかった。


 そして今、あの時の助言をもっとしっかり聞いておけば良かったと後悔するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る