第68話 酒もタバコも

「そうですね、やっぱり最初は普通のやつからですね。 それにしても美味しそうに出来上がりましたね」

「そうですよねっ! 最初はやっぱり普通のやつからですよねっ! そして、そこは私達が作った餃子ですから? 失敗などあろうはずがないですっ!!」

「んっ! やっぱり餃子は美味しいですねっ! てかこの餃子めっちゃ美味しいっ! ご飯が進むっ!!」

「本当だっ!! こんな美味しい餃子は初めてかもっ! お店で食べる餃子もいいけど、自分で作るとなんでこんなに美味しく思えるんでしょうねっ! むむぅっ!? 新谷さんっ! エビ食べてください! エビ! プリップリでめっちゃ美味しいいですっ!!」

「やっぱり自分で作るっていうのは空腹に次ぐ調味料ですよねっ。 むっ!? 朝霧さんっ! お餅も物凄く美味いですよっ!」


 そして、そんなこんなで二人だけの餃子パーティーは大成功で終わったのであった。




 ◆



 あぁ、これは夢か。


 きっと今日朝霧さんと餃子を作って食べたから、こんな夢を見ているのだろう。


 キツく蓋をして、思い出さないように心の奥底にしまっていた筈なのに、そして思い出そうとする度に考えないようにしていくうちに、気がついたらここ最近は考える事すら少なくなって来たというのに。


 目の前では金切声を上げて目を釣り上げて怒鳴散らし手当たり次第手元にある物を投げて来る元妻。


 当時の俺の年収は周囲と比べてもかなり高い方だと思っているし実際に年収一千万は高いだろう。


 そんな俺のお小遣いはお昼ご飯代込みで月一万円だった。


 コレでは酒もタバコも嗜む事すらできやしない。


 もともと酒もタバコも嗜んでいないから別にその分を削っても良いだろうと、そう言われたのだが、この『酒もタバコも嗜む事すらできやしない』という意味を、元嫁は全く理解していないようであった。


 そんな元嫁の爪は週に一回はネイルの柄が変わり、週一回は美容室やエステに行き、昼は友達と高級ランチへ行き、高級バックや服、アクセサリーを買っているのである。


 年収一千万といえそれでは貯金などできるはずがない、ほんとに家計の管理はできているのかと聞けば後日経済DVだと義理両親と弁護士同伴でやって来た事もあった。


 元妻は家の家計は付けていなかったのだが経済DVをされていたという嘘の日記は書いていたようで、それが証拠として出されては男性かつ証拠のない俺に対抗できる手段はなかった。


 そんな俺は『コレでは酒もタバコも嗜む事すらできやしない』額の小遣い、即ち『嗜好品や趣味すら嗜めない額』の小遣いしか貰っていないというのに。

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