第65話 私は最低だ

 そして私と新谷さんは一緒に餃子のタネを作って行く。


 白菜やネギ、ニラにシイタケと具材をみじん切りにして、合いびき肉と擦り下ろしたショウガにニンニク、オイスターソース、醤油、酒、塩を混ぜて完成である。


 野菜は多めの方が美味しいと新谷さんが言うので、野菜多めの餃子のタネだ。


 あとは変わりタネ用にエビの下処理なども終わらせて、二人一緒にちまちまと餃子用の皮に先ほど作ったタネを入れて、よく見るスタンダードな餃子の形にしたり、変な形にしてみたりしながら、当たり障りない雑談を交えつつ包んでいく。


 全てのタネを包み終えた頃には既に外は真っ暗で丁度夕食時になっていた。


 もし、新谷さんと結婚したら、こういう日常もあるのだろう。


 何があったのか詳しいことは分からないのだが何故新谷さんと前の奥さんが離婚したのか理解できない。


 仕事は出会たt時の服装からしてちゃんと働いていたみたいであるし、私からすればいくら考えたところで分からないのだが、大人の二人が決めた一つの答えでもあるのだから私には分からない、当事者にしか分からない事がきっとあったのだろう。


 そのことをあれやこれやと詮索するつもりも無いのだが、気にならないと言えば噓になる。


 それに、今は上手く行っていたとしても嘘がバレれば関係が破綻する事もあるのだろう。


 例えば私がまだ未成年であるとか、それだけではなく新谷さんに恋心を抱いているだとか、今私が隠している事がバレてしまったら間違いなくこの関係は破綻してしまうだろう。


 そしていくら私の通う学校が私服登校可の高校であったとしても、流石にそろそろだまし続けるのも、新谷さんが精神的面が回復していくのに比例して限界がき始めているような、そんな気がする。


 今までは頭の殆どをストレスが占めていたのだが、そのストレスが徐々に減る事により空いたスペースで物事を考える力に割く容量も増えているのだと、ここ最近の新谷さんをみてそう思う。


 初めはぼーとしている事が多く、あまり動こうともしなかったし、表情も豊かではなかったのだが、今では良く話すし、自分から外出が出来るようになるし、ウェブ小説ではあるものの内職もし始め、このアパートに来た当初と比べると雲泥の差である。


 その事を良く思う反面、もう少しこのままでいて欲しいと思ってしまう私がいる。

 

 日々頑張っている新谷さんに対して『もう少しこのままでいて欲しい』と思う私は最低だ。


「じゃあ新谷さん。 餃子、焼きましょうかっ」


 そして私はマイナス思考に傾きかけているのを、両の頬を叩いて無理止めて、目の前の楽しい事に思考を変える。

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