第33話 思考を切り替えよう


 昼間は家の掃除や水回りの掃除などの家事(洗濯は下着を見られたくないからという理由で朝霧さんがやってくれている)をすませると、ウェブ小説のサイトを開いて今書いている作品の続きを執筆する。


 最初は、また一から下地作りのやり直しかとも思ったのだが、数年間放置していた俺のアカウントにも関わ上らず新作をアップするとフォローさんから「待っていました」「おかえりなさい」「新作も楽しみにしています」等という温かい応援と共に出迎えてくれた。


 そのお陰もあってか先月の閲覧数は全盛期ほどとは行かないものの毎月換金できる位には回転しているので胸を撫でおろす。


 そして、ここ数年間換金しておらず、失効されていないポイント全て換金して現金へと変える。


 その金額はコンビニで少し贅沢をしただけで消えてしまうような金額なのだが、今の俺にとってとても有難かった。


 そもそも、元嫁が俺の通帳から勝手に貯金を抜いて浮気相手に貢いでさえいなければ、と思い出すだけで怒りが込み上げて来て気持ち悪くなり、一度トイレで吐いてからスッキリする。


 もちろん使われた金額と慰謝料はキッチリ請求しているのだが、月々指定した口座に振り込まれてくるお金は、こんな状態でかつ、朝霧さんに迷惑をかけているというのに俺の安いプライドが邪魔をして使う気にすらなれなかった。


 使ってしまったら、何か大切な物を失ってしまうような気がしてしまうのだ。


 そんな事はない。


 あれは俺が貰って当然のお金で、相手は支払わなければならないお金であるという事が分かっていても、あいつらからの施しという風に思ってしまう俺もいる訳で。


 あぁ、駄目だ。


 思考を切り替えよう。


 そして気分転換に小説の執筆を再開するのだが、この時間だけは元妻の事を考えないで済む唯一の時間であり、執筆している時はわりと精神が安定しているように思える。


 そのお陰か、ここ最近ではどうにか外に出れるようになった。


 といっても出るだけで玄関前から先へは動くことが出来ないのだが、一歩も外へ出れない時と比べると劇的な進歩と言えよう。


 しかしながら、外に出れただけで喜んでいる場合ではない。


 俺は、この小説で得たお金で朝霧さんへ何か恩返しをしたいと思い、その為に外に出れるように半ば荒治療気味に日々訓練しているのである。


「コンビニ……か。 想像しただけでキツイな」


 元妻や不倫相手。 そして俺の事を知っている知人と出くわす筈がないと分かっていても、その事を想像するだけで足が恐怖で動かなくなってしまう。

 

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