第14話嘘は言っていない

 どれだけ走っただろうか。


 兎に角がむしゃらに、そして限界まで走り、コンビニのトイレまで逃げ込むとトイレへ入りはしたなくも便座にドカッと座り息を整える。


 仕事用のパンプスで走った為足にはいつの間にか靴擦れができていた。


「あ、あんな化け物が家の周りをうろついていたなんて………私だったら絶対帰らない………」


 おそらく私の推理は当たっているだろう。


 あんな化け物に周囲をうろつかれたりしたら例え自分の家だとしても心が休まるはずがない。


 私ならタイミングを見計らって逃げるか、そもそも初めから帰らない。


「全く、何処にいったのよ。 新谷先輩………」


 そう思うと時に私は新谷先輩の事を何一つとして分かってなかったんだなという事を思い知らされ、落ち込む。


「ダメっ、ダメよ私っ、弱気になっちゃっ!!」


 そして私は弱気になり始めた自分を、両頬を叩きながら鼓舞するのであった。






「どうしたの? お母さん」

「ん? 何が?」

「そうよお母さんっ! ここ数日浮かない顔して上の空じゃない」

「そ、そうかなぁ? そんな、別にいつも通りだと思うんだけどなぁ」



 今現在、体育の授業、体育館の壁にもたれて友達である森嶋千秋と田中美奈子と一緒に他グループのバレーを観戦していると、そんな事を聞いてくる。


 一瞬だけドキリとしたものの何とか顔に出さずにやり過ごせたと思う。


「いーや、絶対何かあるね」

「だってもうお母さん、ここ最近恋する乙女みたいなんだもん。 これで普段通りって寧ろ逆に怪しいさ満点だよお母さん」

「な、ななななななっ!? だ、だだだだ、誰が恋する乙女よ誰がっ!?」

「はいダウト。 流石にここまで挙動不審になってしまったらバレバレでしょうに」

「うわー、嘘が下手過ぎるってお母さん。 まぁ、そんなお母さんも可愛いから良いけど」


 そ、そんなバカなっ! 私は完璧に対応出来た筈であるのに千秋と美奈子は更に私を怪しみ始めたではないか。


 おかしいなぁ?


「で、でも私には今好きな人が居ないのは本当なんだけど?」


 嘘は言っていない。嘘は。


「じゃあ、好きになりかけている気になる異性はいるって事ね?」

「それで、お母さんを誑かしたその相手は何処の馬の骨なのよ?」

「き、気になるい、いい、異性……っ!?」

「あ、お母さんっ!? しっかりしてっ!お母さんっ!!」

「あちゃー、顔が真っ赤じゃない、お母さん。 まさかここまで耐性が無いとは思わなかったわ。 先生ーっ!お母さんが倒れたので保健室へ連れて行きますーっ!」

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