第15話 意中の彼でも恋愛事でもありません

「あれ……ここは……?」

「やっと起きた。 もうすぐで放課後ですよ」

「ほ、保健室……?」


 目が覚めると私はいつの間にか保健室のベッドで寝ていた。


 何故? どうして?何かあったの?


 そんな言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡る。


「何があったか分かっていないような顔しているわね、貴女。 貴女体育館で突然倒れたみたいよ? 友達二人が血相変えて運んできてくれたんだから後で感謝の言葉伝えておきなさいよ?」


「あー……そっか、あの時」


 言われてみれば確かに、そんな気がしてきた。二人には悪い事をしたな。後で何か一つ売店で奢ってあげようかしら?


 そう思うと同時に、私はあの時三人で話していた会話を思い出す。


 気になる異性。


 出会ったばかりで、好きとか嫌いとか、そもそも良い人か悪い人かすら分からないにも関わらず判断できる筈がない。


 いや、本当は既に根が良い人である事は分かっている。


 そして顔は男性にしては無駄に整っていて、まつ毛は長くて………って、何変な気分になりかけているのよ私っ!!気をしっかりと持つのよっ!!


 しかし、そう思えば思うほど新谷さんの事が頭の中に溢れてくるではないか。


 忘れろっ! これからどうやって同じ部屋で暮らして行くっていうのよっ! …………って、そうだったわっ! 私新谷さんと今同じ屋根の下で一緒に暮らしてるんだったわっ!! ってだから意識するからいけないのよっ!深呼吸っ、落ち着いて、……でも、期待していた訳ではないけれども何もされなかったな……だからぁぁああっ!!


 最早泥沼。


 意識しないようにすればする程私は新谷さんの事を意識してしまうというドツボにハマってしまう。


「何してんの? 一人で」

「動画撮ったけど、観る?」

「…………お願いします。ジュースを奢りますのでその動画は可及的速やかに消して下さい。 何卒宜しくお願いします」


 そうだ。 そもそもこの人達が原因で私は倒れたのである。


 責める事はあれど感謝する必要など一切必要は無いではないか。


「それで、まぁ、言えるようになったら意中の彼について悩みでも何でも聞いてあげるからさ」

「とりあえず今は、ごめんなさい。まさかお母さんがここまで恋愛事に免疫が無いとは思っていなくて……」

「い、意中の彼でも恋愛事でもありませんっ!!」


 そしてその日、お母さんに好きな人が出来たという噂が学校全体に広がっていったのであった。





深呼吸、深呼吸。そもそもこの部屋は私が(私の親)が借りている部屋よ。ただ「ただいま」って言って入るだけじゃない。

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