第13話泥棒猫

 そして私は電車を乗り継ぎ新谷さんの住んでいるマンションへと向かうと、入り口に一人の女性が立っていた。


 初めこそその変わりように気付く事が出来なかったのだが、忘れない、忘れる筈が無い女性であった。


 その女性に見つかったら、あの雰囲気からして間違いなく面倒な事になりそうだと踵を返すか、それとも関係ないとばかりに強引に乗り込むか迷っていたその時、件の女性とバッチリ目が合ってしまう。


「あらあらあらあら、堀田さんじゃないですかぁー、私の旦那・・・・の同僚のっ!!」


 そして、こちらに来るのが当たり前であるかの如く、そして見つけたからには逃がさないというオーラをまき散らしながら気持ち悪い笑顔と共にこちらへと向かってくる。


 その姿は以前見た時と比べて髪質は痛み、白髪は増え、隈は出来、肌は荒れ、頬はこけているのだが目だけは力強く、こちらを見つめて来ている。


 もしかしたら、これ程迄ではないものの今の私も似たようなものかもしれないと、鏡に映っていた自分を思い出し、間違いなく同僚たちに心配をかけているであろう事が想像つく為反省しようと思う。


「き、奇遇ですね。博文の元奥さん・・・・

「ぐぎぎっ………」


 そんな事を思いつつも見つかったのなら迎え撃つまでと、嫌味増し増しで『元』をつけて呼んであげると想像以上にクリーンヒットしたのかあの気持ち悪い笑みから苦虫を噛み潰したかのような表情へと一変する。


「ところで、博文の元奥さん・・・・である美咲さんが博文のマンションの前で何をしているのですか?離婚したって聞きましたけど、離婚したのならばここへ来る必要が無いですよねぇ?」

「あなたね?」

「へ?」

「あなたが旦那と浮気をしていたのねっ!? なれなれしく他人の旦那の名前を口にしてっ!! おかしいと思ったのよっ!! 博文が私を捨てて消える筈がないっ!! あるとしたら他に女を作っているとしか考えられないわっ! 返しなさいよこの泥棒猫っ!! 人の旦那をっ! 博文を返しなさいよっ!!」


 今日日泥棒猫などあまり聞かないなーと、どこか他人事のような感覚で新谷さんの元奥さんである美咲さんを眺める。


 まるで人間ではなく、人間の皮を被った別の生き物であると感じた瞬間、私はまともに今の美咲さんの相手をするだけ無駄であると判断すると同時に沸々と心の奥底から怒りが沸いてくるのが分かる。


「なに他人のせいにしてるんですか。 自業自得って言葉、知ってますか?それでは私はこれで」

「きゃっ!? ぼ、暴力っ!! 私この泥棒猫に暴力を振るわれましたっ!! 誰か捕まえてぇーっ!!」


 そして私はその怒りに蓋をして今はここから逃げる事を最優先とし、少し強く美咲さんを押しのけるとそのまま走り去る。


 後ろから何か叫んでいるのだが叫びたいだけ叫ばせれば良いだろう。



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