第12話卑怯でも何でも良い

 そんな、ポッカリと胸に穴が開いた様な感覚で仕事をしても身に入る訳がなく、ただただ目に前にある仕事を消費するだけのロボットになったみたいだ。


「おい堀田、今ちょっといいか?」

「は、はいっ!何でしょうっ!?」


 そんな感じで仕事をしていたのがバレたのか主任が珍しく私を呼ぶので怒られるのではと身構えながら主任のハゲがいるデスクまで向かう。


「そんな構えなくても別に怒りはしないよ。 お前にとって新谷は直属の上司で、この会社では親であり兄の様な存在だったからな。 気にするなというのも酷なのは分かってるつもりだ」

「は、はい」

「それでだ、そんな状態でミスされて後々面倒な作業が増えるのも目に見えているから今日はもう帰って良いぞ。 タイムカードは定時で切ってやるから時給や有給とかは気にしなくてもいい。それと明日から三日間休みな。とりあえず一旦しっかり眠って英気を養ってこい。 最近全く寝れてないだろ? この三日間も出勤扱いするから何も心配すんな。 はいっ、帰った帰ったっ!」

「あ、ありがとうございます。 お疲れ様です、主任」


 コレは、職場で倒れる前に『主任としては休ませて給料面でもカバーした』という実績、いわゆる言い訳が欲しいだけだろう。


 万が一私が倒れて会社から詰められても主任はやるべき事はやりましたと一応返す事が出来るし、皆んなの前で言う事で証人も作るというわけだ。


 逆に言えば今の私は主任がそうせざるを得ないぐらい酷く見えているという事でもあろう。


 そう思いながら一度トイレへ入り鏡を見る。


 そこには化粧をして尚生気が無く、クマは酷く、やつれて見える私の顔がそこにはあった。


「確かに、コレは酷いわ………」


 思わず笑ってしまいそうになる。


 そもそも新谷さんには奥さんがいた為憧れの存在であり恋心は抱かないと言い聞かせていたのだが、コレは自分で思っている以上に重傷の様だ。


「病名は恋の病ってか、笑えないわね。 小学生でもあるまいに」


 しかも失って初めて恋と気付く鈍感さである。


 確か………新谷さんは奥さんと離婚するとか何とか言っていた様な………。


そこまで考えた私は新谷さんが住むマンションへ向かう事にした。


作戦は「離婚で会社を辞めてしまう程弱っている所を狙う恋のハンター大作戦」である。


それに、せっかく棚から落ちた休日なのだ。有意義に使いたい。


弱っている時に口説きに行くなど卑怯だ何だと言われたとしても新谷さんの彼女になれるのだとしたら卑怯でも何でも良い。

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