おまけ

「ただいま」


 ほとんど独り言のような音量で呟く。二人暮らしの家の中で。


 木造の古い家屋。俺が生まれた頃から住んでいる我が家だ。

 廊下から通り道にあるリビングを覗く。

 カーテンも閉められた薄暗い部屋。テレビの明かりだけが光源になっている。


「母さん。帰ったよ」


 そこで酒瓶を持ってだらしなくサイズの大きな寝巻きを着ている母を見る。


「……そう」


 テレビから視線をずらさずに俺の言葉が聞こえていることを伝える。

 ボリボリと背中をかいている。


 夜に仕事に出かけるからきっと今起きたのだろう。


 酒の瓶やタバコの吸殻が山のように積まれた灰皿の置かれているテーブルに、コンビニ弁当が置かれている。一つは空。もう一つは多分俺の分。

 俺は無言でその弁当を取って部屋に向かう。


 母との会話はそこで終わりだ。

 父さんはいない。というか会ったこともない。

 リビングを通り過ぎて俺の部屋に入る。

 母さんとの会話は、一日に数秒程度だ。何年もそう。


 自室の勉強机に弁当を置いてふたを開ける。


「アリス……か」


 昨日出会い今日知り合った少女を思い浮かべながら、俺はいつものように一人で食事を取るのだった。



 俺は、この家が嫌いだ。


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