第四章 東の大国
王国の東、ちょうど、大陸を横切るように存在する帝国。
その領土を徐々に広げていったことから東の帝国と呼ばれるその帝国には一人のそれはそれは、わがままなお姫様がいた。
帝都から東に数百キロ。
帝国の版図の最前線に彼女はあった。
見上げるようにバカでかい街の中心、古い死火山の上にそのまま作られた要塞のようないでたちの城の中、明かりのもれる一室に彼女はいた。
「もう、何なのよっ。」
姫は枕を思いっきりつかみあげると、ソファに向かって一気に投げつけた。
枕の羽が宙を舞うのも気にならない。
「帝国を出てすぐに馬車は壊れるし、王子は城にいないし、まったくどうなってんのよ。」
再び、投げつけられた枕から出た羽が飛び回る。
「皇女よ。皇女、帝国の第二皇女レンブラム=アラベスラム=アルメリナよ。そんな王国のちんけな第三皇子とは格も気品も違う、レンブラム家の出よっ。それなのに…、それなのに…。」
再び、枕にパンチをくらわせる王女様。
「お嬢様、そんなに部屋を散らかしては…わたしが王に叱られてしまいます。」
見かねた侍従長が声をかける。
「そんなこと知らないわよ。」
三度、投げつけられる枕。
そのまま、姫は豪華な装飾の施されたソファへ崩れ落ちるようにとなだれかかる。
周りに羽が飛び散るが気にも留めない。
「そうだ、前に帝都で流行ってたアレ、まだ残ってないかしら。」
「アレと申されますと?」
「グイッとやってキュッとやるやつよ。」
「はぁ?」
「だからグイッとやってぷは~ってやるやつよ。」
「お酒でございますか」
「だから、オッ…れん…じ…ュス!」
途切れ途切れに言葉を発する姫。
「?」
「だから、もう、オレンジジュースよ。何、全部、言わせてるのよっ。」
姫は立ち上がり、拳を腰の後ろに持っていくと顔を赤らめながら叫ぶ。
「それならば、城の地下倉庫にあと五つほどあったかと。」
「そう、なら、とっとと、持ってきてちょうだい。」
姫が再び叫ぶ。
「はっ。」
扉を開けて部屋からでていくメイド。
「それにしても、アイツ、招待状はちゃんと持ってくるのね。いいわ、出てあげようじゃない。見てなさい。そっくりそのままお返してやるんだから。」
「お嬢様、例の物お持ちいたしました。」
執事はワインの瓶のような鈍い緑色の容器からオレンジ色のにごった液体をグラスへと注ぎ込む。
「ふっふっ、いつ見てもたまらないわ、この芳醇でこくのある香りとあざやかに彩られ反射するオレンジのコントラスト。」
そういって姫はグラスの中の液体を口に含む。
※オレンジジュースです。
「ぷはっ~。」
グラスを一気に飲み干すと大きく口を開け満足そうにハンカチで口についたオレンジをふきとる。
「姫様、はしたないです…。」
「るっさいわね。これおかわり。」
そう言って姫は空になったグラスをグイッとメイドに向ける。
※オレンジジュースです。(2回目)
「はい、ただいま。」
再びグラスがオレンジで満たされる。
「お嬢様、次の茶会の件なのですが。」
「はー、いかないわよ。どーせ、またくだらない茶会でしょ。行くだけ無駄よ。もうそういうのうんざりなの。」
はぁーっ…とため息をつく姫。
「そんなことより彼方の件はどうなっているのかしら?」
「それでは茶会はキャンセルで。」
「ええ、それでいいわ。で、出立はいつになりそう。」
「明日には出立できるかと。」
「それと、アレの準備はもうできている?」
「いつでも、可能でございます。」
「ふふっ、どちらが勝者か、はっきりと白黒つけようじゃないの。待ってなさいよ、くそ虫。」
そういって姫はグラスをグイッと飲み干した。
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