 第四章 東の大国2 


 はっくしょいっ!


 城の一室でナツは濡れた髪をタオルで拭いていた。


「ああ、鼻がむずむずする。」


「まったくこんな時間まで外に出ているからですよ。」


 語りかけるのはあきれ顔のメイド。


「ハルはどうした?」


「もう、城の客室にご案内しました。それよりも殿下、まずはその、ぼさぼさの髪とびしょびしょの服を何とかしてくださいっ。」


「このぐらいなら大丈夫なのでは?」


「ダメです。これで風邪なんてひいたらどうするんですか。早く湯あみに行ってください。使用人はもういませんけど。まだ湯は張ってありますから。」


「それと、王主催の舞踏会、ちょうど、殿下宛てともう一つありますから、どうぞ。」


 そう言ってメイドは二通の白い封筒をポケットから取り出した。




 ☆☆☆




 ピヨピヨ。


 朝を知らせる鳥さんたちの声。




 昨日ナツに案内された部屋はとても豪華だった。


 豪華な調度品にふかふかのベッド。


 クローゼットの中は…。


 豪華なドレスの山、山、山。


 豪華なシャンデリアに。


 豪華な装飾。


 豪華な絨毯に。


 豪華な燭台。


 豪華なドレス。


 そして廊下にたたずむ甲冑の騎士。




 そだ、外の景色見てみよ。


 私は近くの窓に向かい、開け放つ。




 緑揺れる大地。


 強い風が吹き付けなびく髪。


 その景色に目を見開いた。


 朝のひかりを反射する多くの水をたたえる湖が水面を揺らす。


 青い水面を挟んではるか遠くに見える教会。


 その陰に隠れて見える図書館のドーム。


 全てがあの本のままの景色だった。






 そして湖に映る赤い屋根のお城……。




 思わず上を見上げる私。


「ここ、お城?なのでは?」




 ☆☆☆




 コンコン。


 ドアをたたく音。


「入るぞ。」


 ナツは部屋に入ってくると一枚の紙を置く。


 出てきたの横長の白い封筒。


 真ん中にはスタンプみたいなの。  




「なにこれ?」


「舞踏会の招待状だ。」


「それで、よかったら、その、来ないか?」


 ちょっと横を向くナツ。


「ねえ、ひとつきいていい?」


「なんだ?」




「ナツってさ、王子さまなの?」


「ここってお城だよね?」


 問いかける私。




「隠す気はなかったんだが…。というか城に入れちゃったし…。」


 頭に手を当てて答えるナツ。


「えっ、じゃあ、もしかして、ホントの、ホントの王子様?」


「そうだ。」


 ナツはポリポリと頭をかき、つぶやく。




 あれ?


 でも、王子様ってあの本だと途中から確か呪いにかけられちゃうとか、書いてあったよね。


 やっぱり王子様が病気になる前とか。


 それとも、実は双子だとか?


「ね、王子様ってさ、何人いるの?」


「何人って俺一人だけだが。姉上も今、城出てるしな。」




 ってことは…。


「ね、もしかして、東の帝国のお姫様と会う予定ある?」


「東の…?ああ、アイツか?アイツなら明日の舞踏会に出席するはずだぞ。」


「明日⁉」


「ね、私も、その舞踏会参加できる?」


「もちろん?というかどうもアイツが苦手でな…。」




「そうだ、お礼に俺のお気に入りの場所を案内しよう。そこなら、なにかしらあるだろ。」










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る