第81話怖いものは怖い

 どうしよう。


 その場しのぎの嘘で何とか誤魔化せはしたが、もし嘘がバレたら今度はスタンガンどころの話ではないはず。


 そんな俺の恐怖心を知ってか知らずか、高木さんは当時の事を思い出しているのだろう。


 まるで夢見がちな少女のような表情で、ここだけ切り取ってみれば月明かりに照らされたその表情は幻想的な感じも相まってとても美しく、可憐な少女だと思ってしまいそうな程である。


 しかしながらそれはあくまでも今までの出来事を知らなければという前提があった場合であり、そして今までの出来事の当事者でもあり被害者でもある俺はその光景をみて、美しいくあればあるほど、その美しさに比例して恐ろしいと感じてしまう。


 究極の美しさや感動は恐怖と隣り合わせという言葉を聞いたことがあるのだが、今まさにその言葉の意味を理解する。


 ぶっちゃけ理解したくなかった。


「忘れもしない、登校初日。 高城君は私の後ろの席という、その時から運命はリンクしていたと今ならば思うのですが……」


 そりゃ苗字は両方『タ行』な上に『か』まであってるからその席順になるよねっ!? てかなんですかっ!? 『運命がリンク』ってさも当たり前のように言ってますけど、そもそも運命のリンクってなんですかっ!? それによって漂い始めた都市伝説臭により一気に嘘臭くなったんですけどっ!? その内チャネリングとか言い始めそうなんですけどっ!?


「その時の私はそれが運命だとも気付かずに先生から配られたプリントを後ろの席の高城君に渡したんですけど、その時高城くんの「ありがとう」という言葉でどれほど救われたか。 そして私は思ったんです」


 そしてまた、高木さんはこちらへ振り向くと『にーーぃ……っ』と笑顔を向けてくる。


 それはまるで、自然に出た笑顔ではなくて作った笑顔であるため、普段友達と話したりとかいう事をして来なかった高木さんが頭の中で想像する笑顔と、実際にリアルで筋肉が動くことによって作られた差異により出来た不自然な笑顔のようで、そのあんばランス感が余計に人間ぽさがなくなってしまっているのかもしれない。


 そう、できるだけ心の中で高木さんの笑顔が不自然な理由を考える事によって恐怖心を和らげようとするも、やはり怖いものは怖いという事が分かっただけであった。


 そして、恐らく俺の考えは正しく、高木さんの脳内では可憐に笑う自分の姿が脳内に映し出されているのだろうと思うと、それはそれで悲しくもある。


「高城君こそ、私の運命の相手なんだって」

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