第80話覚えてますよね?
この二人は当初のポジションは同じだったのかもしれないのだが、過ごした環境によって二人が感じていた感情は似て非なるものであったのであろう事が窺えてくる。
きっと高木さんは高木さんなりに今まで必死にもがいて来た結果、必死になればなるほど高木さんの心は疲弊し、壊れていったのかもしれない。。
だからといって、その結果俺が拉致監禁されるというのは納得できないのだが。
俺が高木さんの境遇と、いま現在俺に降り掛かっていいる現実の事を考えてる間も、高木さんは構わず話し続ける。
「そして、その後はイジメなども無くいたって平和な三年間であった。 私以外は。 私にとってはその平和な三年間がとてつもなく苦痛あった。 私はここにいるのに、みんなの目には映っていない。 なら、私はなんなのだろう? なんの為にここにいるのだろう? なんの為に産まれて来たのだろう? なんの為に……なんの為に……なんの為に……」
そして、恐らく高木さんにとって暗黒時代であった中学時代を語っていた高木さんであったのだが、次の瞬間、今まで暗かった表情から一気に笑顔へと変化する。
「ひぃ……っ」
普通、笑顔になる時は『ニコッ』だとか『にっこり』だとか、そんな感じなのだが、高木さんの場合は『にーーぃ……っ』という擬音が聞こえて来そうな、ねっとりとした変化であり、それをもろ見てしまった俺は思わず小さな悲鳴をあげてしまう。
それはまるでホラー映画に出てくる女性の幽霊がターゲットを見つけた時に見せるような笑顔の変わり方であり、むしろこの深夜にあの笑顔を見て叫ばなかっただけでも褒めて欲しいものである。
「しかし、そんな暗かった私の人生は、高校生になって変わったんです。 今でも鮮明に覚えています。 初めて私に対して普通に話しかけてきてくれたクラスメイトと、その言葉をっ!!」
「そ、そうなんだ……はは……っ」
やばいっ! これって話の流れと今この状況から察するに間違いなく俺のことで間違い無いだろうという事までは分かる。
分かるのだが、俺、高木さんに初めて話しかけた時の事をまたくと言って良いほど覚えて無いんだがっ!?
これって覚えて無い事がバレたら殺されるやつでは!?
「当然、高城くんも覚えてますよね?」
「と、ととととととととと当然のような、そうじゃ無いような……」
「覚えてますよね? た・か・し・ろ・く・ん?」
「覚えてますっ! 覚えてますともそりゃっ!」
「なぁーんだ。 ジョークならそう言ってくださいよ。 思わずスタンガンを起動するところだったじゃ無いですかっ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます