第77話嘘は言っていない



「良いですか? 逃げようとしたり、大声を出したりしたらこのスタンガンを使うはめになるので気をつけてくださいね?」

「は……はい」


 深夜の住宅街、住民は寝静まっているのか家の灯りは消えており静かである。


 聞こえる音はたまに通る車の音と虫の鳴き声くらいだ。


 そんな俺の首には犬用であろう首輪に犬用のリードが付けられており、そのシードの先は高木さんが握っている。


 そして、その高木さんのリードを握っていない手にはスタンガンが握られており、そのスタンガンは俺の背中に当てられていた。


 逃げようものなら即座に、あの時俺が気絶した時に感じた鈍痛に襲われる事だろう。


「私、高城君とこうやって一緒に横に並んで学校まで登校する事がずっと夢だったです」

「へ、へぇ……」


 そう嬉しそうに、そして恥ずかしそうに語る高木さんなのだが、どうか夢のままであって欲しかったと思ってしまう。


 もし夢のままであったのならば俺の中の好きだった高木さん象を壊される事もなかったし、今こうして真夜中に学校まで首輪をつけて高木さんに散歩させられる事もなかっただろう。


「あれ? 元気がないようですけど、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫ですっ! 少し考え事をしていただけで──」

「考え事? それって他の女性の事? もしかして氷室麗華や天上彩音の事ですか? せっっっっっっっかく私が危険を冒してまで高城くんをあの二人から守ってあげているというのに、高城君はそんな私の事よりもあの二人の事を考えていたんですかっ!?」


 あ、やばい。 変なスイッチを押してしまった。


 そう思った時には高木さんはマシンガンのように早口て捲し立ててくる。


 その形相はまるで鬼のようだった。


 そもそも、俺は高木さんに守ってほしいと言った覚えもなければ、あの二人から逃げ出したい……と思った事は何度もあったかも知れないのだけれども、だからといって拉致監禁までされて離れたいとは思ってなかった。


「ねぇっ!! 私の話を聞いてますかっ!?」

「き、聞いてますっ!! ちなみに考え事は高木さんの事を考えておりましたっ!!」


 嘘は言っていない。


 俺は確かにあの時高木さんの事を考えていた事には違いない。


「そ、それならそうと言ってくださいよっ! 私ったら勘違いしてしまって、恥ずかしいじゃないですかっ!」


 そう照れながら抗議する高木さんなのだが、できれば普通のシチュエーションで今の高木さんをみたかったなと思ってしまう。


 もしこれが普通のシチュエーションならばきっと微笑ましい光景だったに違いないのに。

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