第76話絶望

 嵌められたっ! と思った時にはもう時すでに遅し。 


 高木さんは俺よりも狡猾で、ずる賢いのだと、なぜここまでされて気付かなかったのか。


 用意周到に俺を計画的に拉致し、そしてアプリという武器まで手にしているその計画性と行動力を見れば誰でも気付けたはずである。


 いや、どのみち俺が高木さんに拉致られた時点でもう俺は手詰まりだったのかもしれない。


 そう思うたびに、俺がここから逃げるだとか、誰かに助けを求めるだとか、そういった気力がゴリゴリと削られて無くなっていくのが分かる。


 よくワンちゃんねるとかのネット掲示板でサイコパスモラハラ夫や妻から日々精神的な虐待をされて苦しい、逃げたいというまとめがされていて、それを読むたびに『じゃあ逃げれば良いじゃん』『なんで離婚しないの』とか思っていたのだが、当事者になってみて彼ら、彼女らが逃げれない理由が分かった。


 彼ら、彼女らは逃げられない理由は『逃げようとしてもどうせバレる』『バレた後の制裁が怖い』という思考に陥っており、そして当初は何度も逃げようとしていたのだろうがその度に見つかり、制裁を喰らい、前よりもモラハラ具合と監視がキツくなっていき、最終的に『逃げても無駄。 だから逃げようと考えるだけ無駄』と思ってしまうのであろう。


 今の俺の精神状態がまさにそれだ。


 外に一度出ればどうにかなるだろう。 外に出てとりあえず家に篭って鍵をかけさえすれば最悪高木さんは家の中には入ってこれないだろう。 そして両親が変えてきた時にでも一緒について行けば。 それに彩音と麗華は俺の味方になってくれるだろうし、俺が一日学校を休みさえすれば二人共すっ飛んでくるに違いない。 そこでことの顛末を説明すれば最悪二人は俺の味方になってくれるはずだ。


 外に出れるというだけでこれらの様々な希望が一瞬にして脳裏に過り、そしてその希望が多ければ多いほど、外に出れないと知った時の絶望は大きくな李、またそれに比例して精神的なダメージも大きくなる。


 その事を知っていて狙ってやっているのだとすれば、そう思うだけで俺の中で『ここから逃げる』選択肢が俺の中で消えかけて行く。


 それでも高木さんは『俺と一緒に二人で登校しよう』と言ったからには、明日になれば俺は学校へ行けるはずである。


 そこで彩音や麗華とコンタクトを取れれば、取れなくても逃げれるのではないか、と俺も一度は絶望して心が折れかけているとはいえ完全に折れているわけではない。


「じゃあ二人で登校は今日の深夜二時で良いですか?」

「……は?」


 そして俺はまんまと同じ手に引っ掛かり、絶望するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る