第75話『し』の後

 そう、笑顔で告げる高木さんの手元にはスマートフォン。


 そしてその画面には俺が製作した催眠術アプリをスクリーンショットした画像が写っていた。


 その画面を見た瞬間俺は悟った。


 高木さんからは逃げられないと。


「私の言う事を聞いてくれるのなら、首につけてる鎖と首輪を外して家に帰らしてもいいよ?」


 はっきり言って首輪などどうでもよかったのだろう。


 いや、俺の心に首輪をつけるまでは逃げられないようにする為には必要だったというだけで、そして今俺の心に首輪をつける事ができたのでもう意味は無くなったという事なのだろう。


「な、何でしょうか?」

「簡単な事だよ? 明日、一緒に二人で・・・登校、しましょうっ!」


 そう、上目遣いで可愛らしくお願いしてくる高木さんの目は、濁っていた。


 あぁ、俺が今まで妄想していた、幸せな高木さんとのシチュエーションがことごとく恐怖体験へと塗り変わっていく。


 そして思い出す。 


 催眠術アプリを購入した者が三人いた事を。


 しかしながら、催眠術アプリをダウンロードした三人が同じ学校、同じ教室で全員俺に使ってくるというのはどんな確率だよと叫びたくなる。


 約一名明らかに俺が作ったアプリだと分かっており、脅しの材料として購入している人物がいるので実質二人なのかもしれないのだが、そもそもそんな人物が同じクラスにいる上に、そいつの恋愛対象が俺になるってどんな確率だと思っているのか。


「もしかして、私と一緒に登校するのは嫌なんですか? なら、仕方ないですね一緒にし──」

「嫌じゃ無いですっ! むしろ高木さんと二人で登校できるなんて最高だなー、なんて……。 は、ははは……」

「よかったぁー。 そうですよねっ!! だって私と高城君は相思相愛なんですもんっ!!」


 あ、危なかったっ!! 絶対今『し』の後に『んじゅう』って続く勢いの目をっ! イッた目をしてたってっ! 高木さんっ!!


 あぁ、無邪気に照れつつも頬を赤らめて喜ぶ高木さんを、たった数時間足らずで怖いと思ってしまう自分ができてしまうなど、昨日の俺に教えた所で鼻で笑われて信じてくれないだろうし、『高木さんには気を付けろ』と教えた場合、最悪昨日の俺は怒りだす可能性だってある。


 女運が無いにも程があるだろう……。


 しかしながらいくら嘆いた所でこの事実が変わるわけでもない為、せめて家に帰ってからじっくりと考えようと、思う。


「じゃ、じゃあこの鎖のついた首輪を外してくれないか?」

「え? なんで?」

「え? さっき一緒に明日二人で登校してくれるなら外してくれるって……」

「いつ、私が今日外してあげるって言いましたか?」

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