第65話いい方向に転んだのだから良しとしよう

「……卑怯だわ」

「なんでだよ」

「その言い方も卑怯だし、プレゼントを用意している事が分かっていれば私だってプレゼントを購入していたわ」

「なら──」

「でも返せと言ってももう私が貰ってしまった以上これは私の物よ。 誰が何と言おうと返さないわよ?」


 俺のサプライズになんだかんだと文句を言いつつも麗華の口元はにやけてしまっており、そして渡したプレゼントを取られまいと両手で胸に抱え込み、まだ俺が何も言っていないにも関わらず『このプレゼントは返さない』食い気味で言い返してくる程には嬉しいみたいで、プレゼントを上げた側からすればこれ程嬉しい反応もそうそうないだろう。


「言うわけないだろう」

「あ、でもちょっと待ちなさい。 サプライズは無理なのは悔しいけれども今から私も健介へのプレゼントを選んであげるから」

「俺は良いよ。 プレゼントをしたくなったから買っただけだし」

「その理屈が通るのならば、私も健介にプレゼントを買って上げたくなったから買うわね」


 変なところ律儀と言うか、意固地と言うか、取り敢えず麗華本人が楽しそうにプレゼントを選び始めたのでこれ以上は野暮だと思い、必死になってプレゼントを選んでいる麗華を眺める事にする。


 この何でもない時間が心地よいと思えるのだから、ある意味で催眠術アプリによる地獄の日々も美人に対しての苦手意識の克服という視点で見れば荒治療と考える事も今なら出来る。


 とは言ってもあの期間は地獄であった事は確かであった耐め、必ずしも良かったとは思えないものの『終わりよければ全てよし』という言葉があるように、いい方向に転んだのだから良しとしよう。


 等と、この時の俺はまだ彼女達二人は催眠術アプリのスクリーンショットのデータを保存してるという事実から目を背けて暢気にそんな事を思っていた。


「ねぇ、この後行く場所は私が決めていいかしら? そこでプレゼントを渡したいと思うのだけれども」

「別にそれでもかまわないぞ。 そもそも今日は初めから予定と違った訳だし今さらだろう」

「あ、ありがとう」


 そしてそんな平和ボケした思考をしている間に麗華はプレゼントを選び購入し終えたみたいで俺の元へと来ると、行きたい場所があるらしくプレゼントもそこで渡したいのだと提案してきたためそれを断る理由もないので了承する。


「それで、行きたい場所ってどこなんだ?」

「ここからだと少し遠いのだけれど、ぞうさん公園って覚えているかしら?」

「覚えているも何も俺が小学生時代まで毎日遊んでいた公園で合っているのならば覚えているな」

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