第66話麗華は嬉しそうに笑う
そして遊具が子供向けであり、当然集まるのも小学生が中心である為中学に上がってからめっきり行かなくなった公園でもある。
よく言えば治安の良い、悪く言えば歳を取ると同年代の遊び相手もいなくなり他に楽しい事が出来て行かなくなる、そんな公園であった。
昔は学校が終わると自転車でよく行っていた事を懐かしむも、なぜこの歳になって今さらぞうさん公園なのか疑問に思う為素直に聞いてみる事にする。
「それで、なんでぞうさん公園なんだ?」
「着いたら教えるわ。 ケンちゃん」
「分かった」
しかし麗華は今は教えてくれないみたいなのだが、着いたら教えてくれると言うので空気を壊してまでこれ以上聞くような話の内容でもないと素直に引き下がるも、麗華から呼ばれた『ケンちゃん』という呼び名が小骨が喉に刺さったかのような、何かを思い出せそうな、そんなもやもやとした気持ちを抱きながらバスと電車を乗り継ぎながら向かう事30分程、俺達は目的地であるぞうさん公園へと到着した。
「昔あった遊具の殆どが撤去されているわね。 残っているのはブランコとぞうさんの滑り台くらいかしら? そのぞうさんの滑り台も新しくなって、まるで違う公園みたいね」
「そうだな。 砂場まで無くなっているとは思わなかったな」
ネットなどで各地の公園で昔遊ばれた遊具がその危険性から次々と撤去されているという話は良く目に入って来ていたのだが、どこか他人事のように感じていた。
しかし、こうして自分の思い出がつまった公園が様変わりした光景を見て、大げさかもしれないのだが思い出の場所が一つ無くなったんだなと少し寂しく感じてしまう。
「ねぇ、あそこのベンチへ行きましょう」
そう麗華が指さす先には少し広めの公園などでよく見るテーブルベンチがあった。
遊具等は変わってしまったのだが、こういった物は当時のままその全てが残っており、当時の記憶が鮮明に蘇って来る。
「懐かしいな。 あのテーブルベンチでよく当時流行っていたカードゲームで遊んだのを昨日の事のように思い出が蘇ってくるな」
そして麗華がさりげなく俺の手を握り、それを振りほどく理由も無く握り返し、二人でテーブルベンチへと向かう。
「あら? 思い出したのはそれだけかしら?」
俺の言葉にどこか不安げな表情と声音で聞いて来る麗華。
その態度から俺に思い出してほしい記憶があるのだろうが、あいにく男友達とカードゲームやドッヂボール、鬼ごっこやケイドロ(ドロケイ)等で遊んだ記憶しか思い出せない事を告げると、麗華は少しだけ寂しそうな表情になる。
「ちなみに誰と遊んだとかは覚えてないかしら?」
「そうだな、アキラにケイスケに、ムーちゃんにタッちゃん……覚えているのはそれくらいだな。すまん」
「ふふ、それで十分だわ。 それだけで私は救われるもの」
恐らく幼い頃の麗華と俺が一緒に遊んだのかも知れず、それをずっと麗華が覚えてくれており、それを俺が忘れているのだろうと素直に謝罪をするのだが、一緒に遊んでいた当時の友達の呼び名の中に麗華を上げていないにもかかわらず何故か麗華は嬉しそうに笑うではないか。
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