第64話受け取る他あるまい





「ねぇ、どうかしら?」


 あれから俺達は昼食を取った後何件か寄り道して目的の洋服店、ウニクロへとようやっと到着する事ができた。


 そして今、俺の目の前には流行りのファッションを身にまとった麗華が恥ずかしそうに腰に手を当て軽くポーズを取って俺へ感想を聞いて来る。


 先程まで来ていた全身黒一色と違い全体的に暖色系の淡いクリーム色で纏められておりワンピースにロングスカートの組み合わせは柔らかな印象を受ける。


 頭にはキャップを被っており似合っているかに合っていないかと聞かれれば──


「正直言って物凄く可愛い……っ」

「ほ、本当かしら?ちゃんと私の目を見て言える?」


 ただ服を変えただけでこうも見た目の印象が変わるのかと、俺はノリノリで洋服をコーディネートしてくれた店員の技術を改める必要がありそうだ。


 そして異性の流行やファッションに疎い俺がコーディネートしなくて良かったとさえ思う。


 餅は餅屋だ。


「凄く可愛いよ、見違えるようだ」

「よろしい。 店員さん、今着ている服を一式購入するのでそのまま着て行っても良いですか?」


 そして俺の反応に麗華は満足そうに頷くと今着ている服を買うために店員さんと一緒にレジへと向かっていく。


 こういう時に恥ずかしがって拒否したりするのは最悪の手であると彩音により身体に文字通り叩き込まれている俺は、恥かしいと言う感情を無視して麗華の要望に応えて再度『可愛い』と応えたのだが、見方を変えれば只であの笑顔を見れたと考えれば安い買い物である。


 そして俺はお会計をし始めた麗華を確認して、麗華に見られないようにイヤリングを手に取ると、俺の分の洋服を買う体で一緒に購入する。


 洋服は自分で払うと言って断られたのだが、千円前後の安物ではあるが、むしろ安物であるからこそこれくらいの贈り物ならば買って上げても断る事はしないだろう。


 それに、彩音と御揃いで買ったと言えば受け取る他あるまい。


「あら? 健介も洋服を買うのならば、私がコーディネートしたかったわ」

「それはまた今度な。 それはそれとして……はいこれ、プレゼント」

「……………………?」


 まさかプレゼントを貰えるとは思っていなかったと事に急にプレゼントと洒落た小物を入れる紙袋を渡された麗華はハトが豆鉄砲をくらったという表現はこういう事かと、目をぱちくりと開いて不思議そうに渡された、両手に収まる程の紙袋を手に眺めていた。


「一応彩音にも同じ物を買っていて、帰ってからプレゼントするつもりだから遠慮せず素直に受け取ってもらいたいんだが?」

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