第63話麗華は麗華

「というか麗華の家もジャンクフードとか食べるんだな」

「当たり前でしょう? 健介は私の事をどう思っているのよ」

「いや、オーガニックじゃないとダメだとか、ジャンク品は駄目だとか、そんなイメージを抱いていたからさ」


「そんな洒落た家庭じゃないわ。 良くお金持ちの家庭っぽいからそのような生活をしているという噂を耳に入って来るのだけれども、サラリーマンの父親にパートの母親に中学三年の弟が一人のごくごく普通の一般家庭よ。 お小遣いも月五千円だし、みんなが噂するようにカードを持っていて好きなだけ使っていいとかいう事もないわ」


 俺の勝手なイメージは高級マンションの最上階に住んでいて、身体の良いものしか食べてはいけないような生活をしているものだと思っていいた為麗華の話した内容はかなり意外なものであたた。


「あー、すまん。俺も麗華の家庭を勝手にお金持ちだと勘違いしていたくちだわ。 立ち振る舞いが綺麗で身だしなみも制服を着崩したりするわけも無く、お金持ちの家で育ったらこんな風になるのかな、という象徴みたいなものだったからな」

「それは何だか私が皆を騙していたと言われているみたいね。 ただ単に人付き合いが苦手で、それを拗らしてしまった結果だわ。 制服だって気心が知れた友達がいたりしたらその友達に合わせていたでしょうし、立ち振る舞いだってせめて嫌われないようにと気を付けていたら、どこで嫌われてしまうか分からないから決められたルールは破らないように常に気を付けていたし、結果的に固い口調も含めてこうなってしまったのよ」


 そう語る麗華の表情と声音は、まるで昔話を話しているかのようだ。


「でも、今の私はそのころの私とは少し違うわ。 好きな異性を振り向かせたくてファッションや化粧も勉強しはじめたし、友達と呼べる人も一人だけどできたもの。 それで、私が実はお金持ちの家庭ではなく庶民の家庭だと知った健介は幻滅したかしら?」


 そして、真実を知った今、俺が麗華の事をどう思っているのか何事もないかのように聞いて来るのだが、ほんの少しだけ麗華の目が揺らいでおり、その事から実際は不安に思っている事が伝わって来る。


「そんな事で嫌いになったりしない。 金持ちの家庭だろうと庶民の家庭だろうと麗華は麗華だ。 その事は変わらない」

「……………………そう」


 そして麗華は俺の返答を聞くと少しだけ嬉しそうにし、その表情を見られるのが恥ずかしいのか顔を隠すようにフィッシュバーガーを食べ始める。


「因みに、麗華の家はどこら辺にあるんだ?」

「あら? 今日はやけに積極的じゃない。 そうねわたしの家はここよ。 いつでも来ていいから」


 そう言いながら麗華が差し出すメモを見ると、高級タワーマンションの住所が書かれていたのだが、きっと気のせいだろうと俺はメモを見なかった事にするのであった。


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