第46話マネーイズパワー
「何か言ったか?」
「な、何も言ってないからっ! うるさい黙れっ! 耳が腐ってんじゃないのっ!?」
そこまで言わなくても良いのではないかと思うと共に、やはり手も足も出なかった事に少なからず違和感と安ど感を感じてしまう。
それにしても今日はいつも以上に丸くなっているようで、内容こそ過激なのだが口調に関してだけ言えばいつもの様なとげとげしさは無く、どこか柔らかさすら感じとれてしまう。
一体どうしたというのか、やはり昨日の事は彩音にとっても恥ずかしかったのか、それが今も尾を引いているのかもしれないと、赤くなった彩音の耳を眺めながらそんな事を思い、俺まで悶々としてしまう。
例え俺に異性としての興味を持っていなくても裸で抱きつくような形で胸を異性に押し当てたという行為は思春期の二人にとってはまだ過激過ぎたのかもしれない。
よくぞあの状況で我慢してくれたと俺自身そう思う。
そして俺達は付き合いたてのカップルの様な悶々とした雰囲気を醸し出しながら通学路を一緒に歩いていく。
毎日通っているはず道なのだが、何故だかいつもと違って見えるのは何故だろうか?
もしかしらた今までは彩音の暴力に怯えながら登校していたのが、ここ最近俺自身が暴力が飛んでこない日常に慣れ始めて来ているかもしれない。
「あら、奇遇ね」
そんな事を思いながら登校しているとなじみ深い凛とした透き通る声が俺の鼓膜を刺激して来る。
何が奇遇だ白々しい奴め。
コイツの家が俺の家と正反対の場所にある事は既に分かっているのですよ、ワトソン君。
「あら? 何か言いたげな表情をしているように見えるのだけれども?」
「いえ、何でもないです」
そして件の声の主である氷室麗華は俺の顔を覗き込み、そんな事を宣うので俺は『そんな事は無いですよ』という表情を取り繕い全力で流す。
「麗華、あんた何でこんな所にいるのよっ! 麗華の家は私たちの家とは真逆でしょうっ!?」
しかしそんなものは天下の彩音さんにとってはなんの障害にもならないのか、ドストレートで直球をぶん投げていく。
「あら、そんなの……彩音さんだけ二人で登下校するのは協定を結んだ者同士として不公平だと思ったから今日から登下校もご一緒させてもらうわね。 ちなみに住む場所も近くのマンションを購入してそこに住むことにしましたから問題ありませんよ?」
えぇー……脳筋じゃなくて脳金……マネーイズパワー。
やはり人生というものは良いことがあれば悪い事もあるのだと痛感すると共に、金の力を思い知らされるのであった。
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