第47話私たちの物になりました





 学校に近づくにつれ騒めきだし、それは次第に大きくなっていった。


 今では教室だけではなく廊下までもが騒めいているのが分かる。


 昨日の今日で俺は氷室麗華と天上彩音と腕を絡めて一緒に登校したのである。


 その光景を見た者達は、男性は血の涙を流し、女性はケダモノを見る様な目を向け、その中には『でも最大のライバルが二人も減った』と喜んでいる者もおり、悲しみと侮蔑と歓喜が入り混じる異様な空気が学校を飲み込んでいた。


「昨日の今日かよ……手が早すぎやしないかい?」

「なんの事だ?」

「みなまで言わなくても分かる。 だからいくらとボケようとも時間の無駄だよ? 健介君、いや、高城健介。 この僕が氷室麗華様の家がどこにあるか分からないとでも思っているのかい? 答えはノーだっ!! そして氷室麗華様が自宅とは反対方向である貴様と朝からイチャラブ腕組み登校をしたという意味が分からない僕ではないっ!! それにだっ!! 昨日俺達氷室麗華親衛隊の数名が血の涙を流しながら校舎裏の体育倉庫付近で倒れているのを今朝発見し、彼らは『我らが女神は死んだ』と口をそろえて申しており、今現在病院に運ばれている者達がいたのだっ!!」


 そう叫ぶと俺の友達だと思っていた中川優斗は血の涙を流しながら「ドンッ!!」と俺の机を両手を振りかぶって強く叩く。


「いや、ニーチェかよ……」

「なんて?」

「いや、何も」

「フンッ。 友達だと思っていたのに俺は悲しいよ。 そりゃそうだ。氷室麗華様親衛隊に入っていないんだから氷室麗華様親衛隊鉄の掟も意味をなさないよなぁ。 それで、友達だと思っていた俺に免じて貴様には最後弁明があるのならば聞いてやろう。 ちなみに、何で君は首に包帯なんか巻いてるのかな?まさか寝違えたとか言わないよな?」


 そう中川優斗が俺へ告げた時、周囲の野次馬たちの目が少しだけ生き返った。


 もしかしたらまだ救いはあるのかもしれない、そういった目で俺の言葉を待っている。


 その光景を見た俺は女神は死んだかもしれないが、俺からすれば今日友達が死んだとはっきり分かった。


 とりあえず、頭のネジが何本かぶっ飛んでいるようなので友達だと思っていた目の前の男性だけでもどうやって病院に連れて行ってやろうか考えていたその時、俺の隣に自分の席の椅子を持ってきて座っている氷室麗華がそっと俺へ寄り添ってくる。


 なんだかとてつもなく嫌な予感がする。


 そう思った瞬間氷室麗華は俺の制服の第一ボタンを外し、ついでに首に巻いた包帯を取る。


 そこに見えるは昨日氷室麗華につけられた無数のキスマーク。


「見ての通り健介君はもう私の、いえ、私たちの物になりましたっ!! お友達言えど渡すつもりは毛頭ございませんっ!!!」


 ございませんっ!!


 ませんっ!


 せんっ。


 そして響き渡る氷室麗華の良く通る凛とした声は廊下まで聞こえたらしく、その声を聞いた男性たちが一斉に崩れ落ちて行くのが見える。

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